◆研究1 「国家の結合体」の研究 本研究は、EUにおいて失われた議論の片綸を、憲法学・国家理論が補うことができる可能性を提示するに至った。EU民主制の法的到達点の一つともいえるリスボン条約の締結において、多くのEU構成国が国民投票を行わず、議会の承認によって批准することとなった。民主主義の赤字を改善するための制度改革の極致が、民主主義的手続を欠いた状態で成立したという逆説は、憲法学にとって示唆的である。憲法学が当地の原理を論じる場合、民主主義に加えて、それと並び立つ主権・立憲主義の理論を対置させ、両輪をもって議論を構築する。しかし、主権国家の枠組みをそのまま使用できないEUの場合、主権・立憲主義の概念が等閑視されたため、政治体の理論が十全に構築できなくなっている。そこで、片翼である憲法学・国家論の再定立が必要となるのである。
◆研究2 構成単位としての国家:カレ・ド・マルベール国家論の新解釈 本研究では、フランスの憲法学者カレ・ド・マルベールの国家理論の再読により、同理論の新しい解釈の可能性を示した。彼の三著作のうち、第一著Contributionおよび第二著Loiはそれぞれ、国民主権論と法律概念の古典として、フランス・日本いずれにおいても読み継がれている。しかし、第三著Confrontationは、前二著とは対照的に、あまり注目されることは無かった。本研究はこの第三著につき、現代的視点から積極的位置づけを試みた。第三著Confrontationのうち、本研究が注目したのは、原理的に法段階理論を批判した前半部分ではなく、法規範と権力機関の性質を分析した後半部分である。そこでは法規範の実質論、複雑で複合的な法秩序論が登場し、雑然として遠心的な議論である。本研究はここに、彼の古典理論の中にある多元性の萌芽を読み取るのである。
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