研究課題
放牧地では,家畜の糞は土壌への栄養供給源であり,温室効果ガス放出源でもある。よって,放牧地内の面的な分布を最適化し全体の「生産性向上」と「環境負荷低減」を両立するためには,採食や反芻だけでなく,排泄行動も把握する必要がある。放牧家畜の行動を把握するための機器が多く開発されている中,排糞行動についての有益なツールはまだ開発されていない。そこで,研究計画に従い,当該年度はまだ成果が得られていない糞排出場所の把握のためのモデルの作成と,無人飛行機(UAV)を用いた放牧地の糞排出場所の検出を試みた。モデルの作成については,放牧終了後の目視でカウントした糞の数を目的変数とし,草地管理に応用可能な2つのパラメーター(草量と水飲み場からの距離)を説明変数としたシンプルなベイズモデルを作成した。その結果,高い推定精度(R2 = 0.93)が認められ,糞の空間分布の予測が可能であることが示唆された。さらにモデルの再現性を明らかにする目的で,同時期の3パドックのデータを用いて,モデルの拡張,他のパラメータの検討,パドック間の比較を行った結果,糞は水飲み場から近いほど,そしてフェンスから遠いほど多くなる傾向があることが示唆された。また,放牧期間中は毎月1回,カメラを搭載し無人飛行機から,空撮画像を取得し,パドック内に設置した3区画(20 m × 20 m)の中で,GPSを用いて糞の位置を記録した。6月の2つの区画データを基に,画像のRGB情報のみでランダムフォレストを用いた糞の画像検出を試みた。その結果,各区画の正答率はそれぞれ88.9%,85.1%であり,2区画のモデルを交差検証した結果でも,同程度の正答率を得た。また,特徴的な色を示す新しい糞(排出後1週間以内)は,高い精度で判別可能であるが,乾燥して分解の進んだ古い糞は土壌と似たような色情報を有するために判別率の低下が認められた。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に従い,データの取得,解析が問題なく行われている。これらの成果の一部は2015年度3月に信州大学で開催された草地学会にて口頭発表を行った。論文執筆については,既存の成果(放牧地内の糞の排出場所の空間的な分布を予測するモデルの開発)のうち1報がGrassland Science誌に受理,1報がAgriculture, Ecosystem & Environmentに投稿中(Major Revision)である。以上,フィールド調査および解析,論文執筆も概ね予定通りに進行している。
これまでに,特徴的な色を示す新しい糞(排出後1週間以内)は,高い精度で判別可能であるが,乾燥して分解の進んだ古い糞は土壌と似たような色情報を有するために判別率の低下が認められている。よって今後は,糞排出後の分解過程における色情報の変化に伴う判別率の低下の検証と空撮頻度を1週間ごとにすることで,これらの問題解決に取り組む予定にある。また現在までに,UAV空撮画像による草量の評価と家畜行動の把握,実際の糞排出場所からの温室効果ガス発生量の測定も行っているので,それらのデータと合わせることで,牛糞の分布と家畜行動および牧草の空間的な分布との関連についても評価していく予定である。そして,集めたデータ(草量や地形,家畜行動,気象条件などの異種空間情報)を地理情報システム(GIS)上で統合し,家畜の空間的選択性に関与している外的要因をパラメータとして,ベイズモデルを用い家畜行動を予測するモデルの作成を試みる。また,本年度は,我が国同様,放牧家畜の排泄物由来の温室効果ガスの放出の削減が急務であるニュージーランドに半年ほど滞在する予定である。研究打ち合わせと現地調査とを行い,モデルの汎用性を向上させるとともに,さらなる知識の向上に精進する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Grassland Science
巻: 61 ページ: 50-55
10.1111/grs.12077