研究課題/領域番号 |
14J05698
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
鈴木 麻央 一橋大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | グローバリゼーション / 国際政治学 / アメリカ / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
平成26年度前半は、文献収集および資料の読み込みに努めた。特に、国際政治学における「規範」の役割と、規範がいかに国境を越えて伝播し、市民社会の抗議活動において活用されているかについての研究状況を把握することに努めた。また文献調査のみならず、7月に東京大学で開催された「ポスト新自由主義時代の民主主義の行方:グローバル化する世界と社会運動」といった国際シンポジウムにも参加し、情報収集と意見交換に努めた。発表者の多くは米国の社会学者であり、学際的な視点を養うことができたと同時に、アメリカにおける議論のフロンティアを捉えることができた。「規範」と国際問題の関わりを追究するにあたり、国際政治学のみならず、社会学からの議論も広く取り入れる必要性を感じ、文献の収集・読み込みを進めている。 平成26年度後半は、予定していたアメリカへの調査旅行に代えて、オーストラリア国立大学(ANU)で在外研究を実施している。文献を読み込む中で幾度となくANUの教授の論文に遭遇し、知的財産権制度のグローバル化と医療の問題、産学連携のつながりを議論するためにはANUにて知見を深めることが不可欠であると確信するに至ったためである。渡豪以降、多様なセミナーに参加するとともに、日々教授陣、学生たちとの議論を通じて視野を広げている。特に、学問領域によって区切られた部門ではなく、グローバル規制を分析対象とする学際的な研究部門に所属しているため、政治学のみならず法学や公衆衛生学の専門家と交流する機会に恵まれた。実際に国連機関等での職務経験を持つ研究者から、アカデミックな議論のみならず実践的な問題についても意見を聞けたことは大きな収穫であった。これらを踏まえ、いかに産学連携と医療の問題をより精緻に分析し、提言(問題解決)につなげることが可能か、検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献調査は計画以上の広がりをもって進展していると考える。しかし、現時点では分析基盤を整えている段階であり、研究発表や論文掲載の段階にまで至っていないため、「おおむね」順調な状況であると自己評価する。アメリカへのフィールド調査を実施しなかったため、事例分析という点では著しい進展は見られなかった。しかし、現在までの研究における最大の進展は、アメリカに代えて訪問したオーストラリアでの在外研究を通じて、他(多)分野の研究者・実務経験者と情報共有できたことによってもたらされた。修士論文でまとめた事例分析を理論的により精緻化するために、たとえば「マルチステークホルダー・ガバナンス」や「ヘルス・ディプロマシー」といったコンセプトが有用であるとの指摘を受けた。対象地域についても、事例で扱った南アフリカ、アメリカのみならず、アジアの動向を視野に入れることを助言された。このように理論基盤の強化および柔軟に視野を広げることで、単なるファクト・ファインディングな事例分析ではなく、より大きな国際政治の問題としてこれまでの研究を再解釈することができるようになってきている。これら自分の脳内での進展・達成を論文の形にし、学術雑誌に投稿することが次のステップである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの進展を踏まえ、アメリカの産官学連携がもたらしたものの一側面である「薬のない世界」すなわち途上国におけるエイズ薬アクセス問題を、国家のみならず多様なステークホルダー(企業、市民社会、大学等)が関与している様相を明らかにすることで、先進国において生じている問題とのつながりをもって考察する。これを論文にまとめ、学術雑誌に投稿する。 その後さらに、アメリカの産官学連携がもたらしたもう一側面である「薬漬けの世界」すなわち先進国における薬害の問題を検討するために、アメリカのみならず日本の製薬業界や日本政府、日本の市民社会の動向にまで視野を広げて分析を行う予定である。というのも、オーストラリアでの在外研究以来、医療問題に関してアメリカやEUの動向は広く分析されてきた一方、米欧に次いで大きな製薬産業を抱える日本の動向は無視されてきたという指摘を度々受けたからである。アメリカに限らず日本の動向も踏まえることで、既存研究が見逃してきた要素を拾い集め、医療の問題に影響を及ぼすより大きな国際政治のダイナミクスを検討したいと考えている。この分析はまた別の論文として、英文学術雑誌への投稿を目指す。
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備考 |
在外研究先であるオーストラリア国立大学にて作成された研究内容のページ。
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