研究課題/領域番号 |
14J05729
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石飛 博之 広島大学, 病院(医), 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 変形性関節症 / Exosome / microRNA |
研究実績の概要 |
変形性関節症(以下、OA)は分子病態の解明の遅れから根本的治療は存在しておらず、抗炎症薬による痛みの抑制や、人工関節置換といった対症療法が主な治療方法である。我が国では約3000万人ものOA罹患者の存在が示唆される。今後、更なる高齢化に伴い罹患者の増加、また、OA症状の悪化は著しくQOL(Quality of life)を損なうことから、これらの対策としてOAに対する新たな治療の開発や診断マーカーの発見が必要である。我々はこれまで、新たな制御因子として、microRNA(以下、miRNA)を含むExosomeに着目し、合成miRNAを細胞に過剰に導入することでExosome型のmiRNAとして分泌させることができ、そのExosomeを別の細胞に添加すると容易に細胞内に取り込まれ機能することを報告している(Shimbo K et al ., 2014 BBRC)。このことから、OAに予防効果のあるmiRNAを間葉系幹細胞などに導入し、Exosome型miRNAとして分泌させたExosomeを治療に応用できるのではないかという仮説をたてた。これまで、miRNAを用いた組織修復の検討などが行われているが、血中においてRNAは短時間に分解されてしまう。その結果、治療効果が低下するといった問題点が指摘されている。一方、miRNAをExosomeに含ませることは血中において分解を受けないことが報告されることから、Exosome型miRNAは、単にmiRNAを投与する場合と比較し、治療効果が高いことが予測される。そこで、本年度は、OAモデルマウス、筋損傷モデルに対し、Exosome型miRNA、またはmiRNAの投与を行い、両者の治療効果の比較を行うことを目的とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験1 Exosome型miRNAによるOA治療効果の検討 これまで、軟骨の恒常性に重要な役割を果たすmiRNAを間葉系幹細胞(MSC)に導入し、分泌されたExosome型miRNAを靭帯切除モデルマウスへ投与を行った。しかし、靭帯切除によるOAモデルは一定のOA病態を示す訳ではないため、治療効果を明確に評価できないことが問題点として挙げられた。そこで、新たに老化促進モデルマウス(SAMP8)を用いてExosome型miRNAの治療効果の検討を行った。『結果』6ケ月齢のSAMP8は100%の確率で軟骨変性が起こっていることを病理組織学的評価により確認した。よって、靭帯切除によるOAモデルマウスに比べ、SAMP8は治療効果を評価しやすいOAモデルマウスであることが示された。そこで、軟骨変性などのOA様変化が観察されないSAMP8に対し、① Exosome型miRNA, ②Exosome型ネガティブコントロールmiRNAの関節投与を行った。病理組織学的評価の結果、これまで①群では約6割程度OA病態の抑制が観察されている。 実験2 Exosome及びmiRNAによる筋肉損傷に対する治療効果の検討『背景』激しい運動などの衝撃により筋肉が損傷することはよく知られている。重度の筋損傷を再生させることは健康的な日常生活をおくるうえで重要である。『結果』MSC由来のexosomeを筋損傷モデルマウスに局所投与したところ、骨格筋の早期の修復が観察された。その効果の責任因子としては、サイトカインなどだけでなくmiRNAを含むexosomeが重要であると考えられた 以上の結果から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。しかし、エクソソームの精製技術など技術面でまだゴールデンスタンダードが確立されていないことから治療効果メカニズムの解明については若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の成果から、OA治療においては、単にmiRNAを投与する場合に比べ、Exosome型miRNA投与の治療効果が高いことが示唆された。しかし、なぜExosome型miRNA投与の治療効果が高いのかというメカニズムについては不明である。軟骨は、筋肉と比較し血管がない組織であるため、治療薬の浸透性が低いことが予想される。そこで、蛍光標識したExosomeを関節内に投与し局在等を明らかにすることでメカニズムの解明に繋げる。次に、当初の平成28年度の計画ではOA診断マーカーの探索などを予定していた。しかし、近年、OA診断において歩行解析や脳波を解析の有用性が指摘されている。そこで、マウスを用いた動物実験だけでなく、平成28年度は新たに動作解析等を導入し、申請者が掲げるOA疾患の臨床応用に繋がる新たな知見の発見を目指す。 この課題に取り組む問題点として、申請者の受け入れ教官である広島大学、味八木茂講師は歩行解析等の専門家ではないことが挙げられる。対応として、新たに東京大学、中澤公孝教授を受け入れ教官とした。中澤研究室では国立障害者リハビリテーションセンターと連携し、高齢者等の健康・体力維持を目的とし、臨床応用につながる基礎研究を行っている。例えば、人間固有の基本的な運動である直立二足歩行、手法として、モーションキャプチャーを用いた動作解析等を行い、必要に応じて動物・培養実験も行える環境にある。OAのより基礎的な部分に関しては前受け入れ教官である広島大学病院味八木講師にもアドバイスを仰ぎながら研究を進める。
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