研究実績の概要 |
1. 稔性回復遺伝子RF98の同定 昨年度の結果からPPR762が稔性回復遺伝子Rf98の実体であると予想し, 形質転換実験を継続して行い, PPR762のゲノム断片をCMS系統RT98Aに導入した形質転換体を合計で23個体得ることができた. それらの形質転換体について稔性の評価を行った結果, 最大で1穂あたり15.9%の稔性回復が示された. この結果から, 稔性回復遺伝子Rf98はPPR762であることがわかった. 本研究の目的であるRT98型CMSの稔性回復機構の全貌の解明において, その一端を担う遺伝子を同定することができたことに意義がある.
2. RF98の機能解析 稔性回復遺伝子Rf98の発現解析を試みたが, 稔性回復遺伝子の候補として選抜した他の7個のPPR遺伝子に比べて発現が極端に低いことがわかった. PPR762を含むゲノム断片を導入した形質転換体23個体のうち, 稔実率の高かった2系統から得たT1種子をカルス化し, ミトコンドリアRNAを抽出してorf113プローブでorf113のmRNAが切断されているかどうかをノーザンブロット分析により調査したところ, orf113の切断は起きていないことがわかった. 以上の結果から, 稔性回復遺伝子の機能を補助する稔性回復補助遺伝子が存在する可能性, 稔性回復遺伝子Rf98のターゲットはorf113ではない可能性, Rf98の発現量が低いためにRF98の作用が検出しにくく稔性回復能力も低い可能性が考察された. RF98の機能が低い理由を考察できたことに意義がある. 本研究の目的であるRT98型CMSの雄性不稔機構の解明のためにはorf113以外のCMS原因因子を探索する必要がある. Rf98を過剰発現させることで稔性回復能力を強化させることができれば, RF98の機能解析をより効果的に実施することができると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果から, 稔性回復遺伝子の機能を補助する稔性回復補助遺伝子が存在する可能性, 稔性回復遺伝子Rf98のターゲットはorf113ではない可能性, Rf98の発現量が低いためにRF98の作用が検出しにくく稔性回復能力も低い可能性が考察された. これらの可能性を考慮しつつ, CMS原因遺伝子の実体を明らかにするため, 以下の実験を進行中である. 1)稔性回復補助遺伝子の同定に向けたマッピングを行い, 候補領域にある遺伝子の中からPPR782をクローニングした. PPR782はWA型CMSの稔性回復遺伝子Rf4の実体である (Kazama and Toriyama 2014; Tang et al., 2014). そのため, 優先して形質転換実験を行っている. 2)稔性回復遺伝子Rf98のターゲットを見出すべく, Rf98のターゲット予測を行った. 予測されたターゲットに対して特異的なプローブを作成し, ノーザンブロット法によりRT98AとRT98Cで転写パターンに違いのあるターゲットを探索中であある. 3)Rf98にタグを付け, 過剰発現させるコンストラクトを作成中である. 過剰発現は花粉で発現するようにユビキチンプロモーターを用いて設計する. 花粉での発現の確認用にGFPを過剰発現させるコンストラクトも同時に作成中である.
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