植物細胞壁の主成分であるセルロースは、天然でほぼ単結晶に相当する高結晶繊維として生産され、それらを微細化したセルロースナノファイバーは複合材料のナノフィラーとして注目されている。本研究では、計算化学的手法により、セルロース結晶の構造特性に関する分子論的理解を深め、それら知見を基盤とした新規セルロース関連材料を提案した。 今年度は、これまで計算化学研究により予測されたセルロースナノチューブ(CelNT)について、立体構造や熱力学特性および、それら特性に対する形状、サイズや溶媒の影響を解析した。量子化学計算により、予測されたCelNT構造に基づいて、任意に分子鎖配置やサイズをデザインしたCelNTモデルへと拡張し、様々な溶媒条件でのダイナミクス構造を検討した。 シミュレーションの様々な時間帯で、局所構造に相当するヒドロキシメチル基の配座変換に伴って、分子鎖間水素結合様式の交換が観察された。このような高頻度のヒドロキシメチル基配向や分子鎖間水素結合の交換は、平面状分子鎖シートで構成されるセルロース結晶構造中では観察されず、CelNTの曲面分子鎖シートに起因する特徴と推定された。次に、チューブ表面における溶媒密度分布をマッピングする新たな解析手法を確立し、ナノチューブ表面で低誘電率の溶媒分子が集合している様子(構造化)を観察した。特に、シクロヘキサンやベンゼンなどといった低誘電率の無極性溶媒では、チューブ表面における溶媒分子の構造化が顕著であった。 このような結果から、本研究で提案されたCelNTは、分子鎖シート両端の親水基が閉じることで疎水的性質が支配的となる新たなセルロース高次構造である可能性が示唆された。
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