近年、後天的に獲得した形質がDNA変異を伴わずに次世代へと継承されることが報告され始めている。しかしながら、その詳細な分子機構については未だ明らかになっていない。本研究では、環境ストレスにより誘導される形質の変化が世代を越えて受け継がれる分子メカニズムの解明を目的としている。ストレスは高濃度では有害となる一方で、低濃度で用いると個体のストレス応答が活性化されて生存力が向上することが知られている。本年度の研究において私は、線虫に種々のストレスを与えて飼育することにより有益な効果がみられるのかを調べた。次に、与えるストレスの濃度条件の検討を行い、最もフェノタイプが大きく表れる濃度を決定した。また、ストレスを与えることで生じる発生スピードや体長の違いが、その有益な効果に関与しているのかを検討した。さらに、ストレスを与えた親世代から産まれた子世代の線虫を、非ストレス条件下で飼育したのち、親世代でのストレスへの曝露が子世代にどのような影響を及ぼすのかについて検討した。また、その子世代から産まれた孫世代についても形質が受け継がれるのかを調べた。さらに、オス親にのみストレスを与えた場合には、その子世代の線虫においてどのような影響がみられるのかを検討した。それらの研究結果から私は、ストレスを受けた親世代の核内でエピジェネティックな変化が生じ、それが世代を越えて受け継がれるのではないかと考え、形質の継承を担っているヒストン修飾因子を探索した。
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