研究課題
これまでの文化心理学研究の多くは、特定の一時点における複数の文化のデータを収集し、人間の心理・行動傾向の文化差を記述することに留まっており、文化の動的な側面はほとんど扱われてこなかった。人間がいかに社会・文化を作り上げ、その社会・文化から影響を受けているのか、という文化心理学・社会心理学が共通して解くべき重要な課題を解明するためには、文化の動的な側面を経時的な実証データとして切りだすことが効果的である。文化変容のうち、文化の個人主義化に焦点を当てた研究は、少数ながら欧米において蓄積され始めていたが、欧米以外の文化変容についてはほとんど検討されていなかった。そこで本研究では、日本における個人主義傾向の変化を定量的に示すことを目的とした。日本文化の個人主義化と不適応問題の関係を経時的かつ実証的に検討するためにも、必要な作業である。具体的には、行動の結果として生じる文化的産物の一つである子どもの名前を用いて、日本において個性追求傾向が増加しているかどうかを検討した。研究1では、ベネッセコーポレーションと明治安田生命が公開している2004年から2013年までの名前ランキングを分析した。その結果、独立した2つのサンプルで一貫して、トップ10に含まれる名前(i.e., 一般的な名前)の割合が経時的に減少していた。よって、個性的な名前の割合は増加しており、日本における個性追求傾向が増加していることが示された。さらに研究2では、ペットとして飼育されている犬の名前を用いて同様の検討を行った。アニコム損害保険が公開している2006年から2014年までの名前ランキングを分析したところ、結果は研究1と一貫していた。これらの結果から、近年の日本において個性追求傾向が増加しており、個人主義化が進んでいることが明らかとなった。本研究は、国際会議などで報告された後、英語論文としてまとめられ、現在査読中である。
2: おおむね順調に進展している
日本文化の個人主義化を実証的かつ多面的に示すことは想定以上に困難な作業となった。なぜなら、欧米と異なり、個人主義傾向を反映していると考えられるアーカイブデータの公開が非常に限定的であったためである。しかし、行動の結果として生まれる、文化的産物を分析対象とすることでこの問題を解決した。そしてこれらの知見を英語論文としてまとめて投稿し、現在査読中である。名前を用いた研究に加えて、日本文化の個人主義化を定量的に記述する複数の研究を同時並行している。これらの進捗具合から、研究はおおむね順調に進展していると言える。
今後は、日本文化の個人主義化を、個性追求行動とは異なる指標も用いて多面的に示していく必要がある。さらに、データの制約上難しいものの、より長い期間の文化の変容を検討する必要がある。また、文化の個人主義化と不適応問題の関連については、既に得られているデータを用いて分析が進められており、仮説通りの結果が得られた。今後得られるデータと合わせて、更なる精緻な分析を行う予定である。
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Psychologia
巻: 57 ページ: 213-222
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