研究実績の概要 |
微視的理論に用いられる有効核力は安定核の情報を元に構築されており, 不安定核に適用した際にその不定性が大きな問題となっている. 一方で, 第一原理計算である格子QCD計算による核力ポテンシャルの導出が可能となっている. 格子QCDは本研究課題の目標の一つである「核力に立脚し, 微視的に核構造・核反応を記述する」ことのできる理論的手法であるが, これを不安定核に直接適用することは計算コストの問題により極めて困難であるため, 代替的な手法の構築が必要不可欠である. そこで, QCDと低エネルギーで等価な低エネルギー有効理論を格子上で定式化することによって, 核力を導出すると伴に核構造・核反応を記述する理論的枠組みの構築の検討を開始した. 原子核の典型的なエネルギースケールまで記述し得る有効理論では符号問題が起きるということが明らかになった. 符号問題は有限密度の格子QCDなど計算物理において広く普遍的に現れる未解決問題であるが, 繰り込み群解析に基づいて符号問題を回避する方法を着想した. これを受けて, その符号問題の回避方法を実証する為に必要な繰り込み群解析を実行した. 実証に必要な情報は異常次元のような普遍的な量ではなく, 非自明固定点の位置などの正則化に依存した量である. そのため, 数値計算によって格子正則化における厳密な繰り込み群を求めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目標の一つである「核力に立脚し, 微視的に核構造・核反応を記述すること」が可能な理論的手法を考案し, その実行上の問題である符号問題に対する解決方策を既に着想している. 更に, その解決方策の検証に必要な繰り込み群解析を実行し終えた. その解析では当初予定していた以上の情報を引き出すことに成功した. 今後, 数値計算によってその妥当性を検証する段階にあるという点において順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって求められた格子正則化における繰り込み群の情報を元に, 繰り込み群解析に基づく符号問題の解決方策の妥当性を数値計算によって検証する. その有用性が実証された後に, 実際の原子核系への適用を行う予定である. また, この理論的手法では有限密度系への適用も可能であるため, その実行に関する検討も同時に進めていく予定である.
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