研究実績の概要 |
吸血性節足動物であるマダニは、さまざまな病原体を媒介しうることから、極めて優れた病原体媒介能を持つ。本研究ではマダニの自然免疫系の解明をはかり、それらを破綻させることに基づいた新規のマダニおよびマダニ媒介性疾病の防除法を模索する。 レクチンは免疫や代謝など生体内で重要な機能を担う蛋白質である。近年、C型レクチンが病原体特有の多糖構造を認識しシグナルを発信するという多数の知見があり、Toll様受容体などとは異なる新たな自然免疫受容体ファミリーを形成すると考えられる。 本年度は、フタトゲチマダニより新規のC型レクチン様蛋白質(HlCLec)を同定し、機能解析を実施した。HlCLecはN末端にシグナル配列、C末端に膜貫通領域を有していた。また、非常に興味深いことに、多くのC型レクチンが1~2個の糖認識ドメイン(CRD)を有しているのに対して、異なる3つのCRD(CRD1, CRD2, CRD3)を保存していることが明らかとなった。HlCLec遺伝子ノックダウン後に大腸菌または黄色ブドウ球菌を経皮接種した際のマダニの生存に及ぼす影響を調べた結果、大腸菌接種群において生存率が有意に減少した。HlCLec遺伝子はマダニの吸血に伴って上昇し、RNA干渉法による遺伝子ノックダウンでは対照群に比べて有意な飽血体重の減少をもたらし、産卵率および孵化率も減少した。また、個々で発現させたCRD1~3の組み換え蛋白質を用いて、細菌結合試験および細菌の増殖抑制試験を行い、すべてのCRDが大腸菌および黄色ブドウ球菌に結合しうるが、それらの増殖を抑制しないことが分かった。 以上の結果より、HlCLecはマダニの生存、特にグラム陰性菌の感染防御において重要である可能性が示唆された。また、HlCLecは直接的な抗菌活性を示さない、自然免疫関連膜受容体である可能性が明らかとなった。
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