研究課題
昨年度はバベシア原虫媒介阻止ワクチン標的受容体としてフタトゲチマダニより新規のC型レクチンの同定および機能解析を行ったが、バベシア原虫に対する関与については未検証である。しかし、現状ではこのマダニの媒介原虫であるバベシア・オバタ(Bo) 感染実験が容易にできないウシを宿主とし、フタトゲチマダニ体内におけるBoの知見については不明な点が多い。そこで本年度は、フタトゲチマダニ体内におけるBoの挙動を明らかにすることを試みた。本研究では人工吸血法を用いてBo感染マダニを作出し、Boβ-tubulin遺伝子を標的としてPCRまたqPCRによるマダニ体内のBo検出を行った。その結果、中腸においては飽血後0日目にはほぼすべてのサンプルにおいて原虫遺伝子断片が検出されたのに対して、飽血後4日目に向けて検出率が減少した。一方で、卵巣およびその他の臓器においては飽血後4日目に向けて検出率が増加した。検出されたBoを可視化するために、原虫細胞骨格蛋白質であるP29を標的に蛍光抗体法による検出を行った。BoP29ホモログのクローニングを行い、マウスを用いて特異的抗血清を得た。Bo感染マダニ組織切片を用いて蛍光抗体法を行ったところ、マダニ細胞の内外ともにBo特異的な蛍光を確認できた。またBo感染マダニ卵の圧平塗抹を用いて同様に検出を行ったところ、Boと思われる細胞を確認することができた。以上の結果より、新規のBo人工感染マダニにおけるバベシア原虫感染率評価系を確立することができた。また本実験系を用いて、飽血後24時間以内に中腸を通過したバベシア原虫が、マダニベクターにおける経卵巣伝播の成立に寄与する可能性が明らかとなった。これらの成績は、バベシア原虫とマダニベクターとの相互関係を分子レベルで解析する上で重要な時間的指標となるものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
昨年同定した新規の膜受容体とバベシア原虫の関連性を探るために新規の評価系を作製し、今まで不明であったフタトゲチマダニ体内におけるBo動態の一端を明らかにした。本成果により、マダニ体内でのバベシア原虫研究において新たな研究展開が期待される。
本年度の成果により、人工吸血法を利用したマダニ-バベシア実験感染モデルを作製することができた。当初の計画では最終年度に犬を用いた感染実験を予定していたが、感染動物を用いず、より簡便で再現性のとりやすい本実験系を利用して、同定した膜受容体がバベシア原虫の伝播阻止ワクチン標的候補分子となりうるかを検証していく予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 8件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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