研究課題/領域番号 |
14J05879
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野村 竜也 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 純スピン流 |
研究実績の概要 |
非磁性中で形成されたスピン流の偏極方向をラーモア歳差運動で操作する手法を考案し、方向制御型スピンデバイスの実現に向けた要素技術の開発を試みた。 まず、大型電磁石を用いてCoFeAl合金の異方性磁気抵抗効果を測定した。印加した外部磁場は最大1.4T程度であるが、磁化が飽和するのにはさらに大きな磁場の印加が必要となることがわかった。なお、NiFe合金における飽和磁化は0.8T程度である。以上の結果からCoFeAl合金を用いることでスピン回転角の制御に利用する臨界磁場の制約が大幅に緩和できることが期待できる。 次に長距離非磁性チャネルを有する非局所スピンバルブ素子を用いて、生成したスピン流の偏極方向に対して垂直な面内磁場を掃引することで、ラーモア歳差運動を誘引し、そこから得られる電気信号を検出した。実験結果は明瞭なラーモア歳差運動からなるスピン変調信号が検出され、スピン偏極方向の回転が確認された。一方で、スピン流の量子化軸を回転させると、各電子の拡散時間の違いによりスピン偏極方向にデコヒーレンスが生じ、スピン起因の電気信号の大きさが減衰する。本実験におけるスピン流の量子化軸の回転に伴うスピン情報の損失は40%程度であった。 そこで、非局所スピンバルブのスピンチャネル間の両側にナノ磁性体を搭載し、ナノ磁性体からの漏洩磁場を用いることでスピン情報の損失を軽減することを試みた。非磁性体中を輸送するスピン流は、ナノ磁性体からの局所的な漏洩磁場を受けることで、その範囲で強い回転を受ける。従って、この局所的な漏洩磁場の存在はスピン情報の損失を軽減させることに繋がる。本実験ではナノマグネットの幅を1mm、1.5mm、2mmの三種類について実験を行い、最終的にスピン情報の損失を5%まで軽減した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新奇なスピン偏極方向制御技術の一つとして、ラーモア歳差運動によるスピン起因信号変調技術を確立した。これによりスピン偏極方向に高い選択性を持ったデバイスの実現が期待できる。 一方で、横スピンの吸収強度が縦スピンに比べて10倍以上大きい選択性の高い物質が見つかっていない。これは本年度の継続課題としたい。しかしながら、その間アモルファス状の特異なバンド構造を有するCoFeAl合金から極めて大きなスピン起因のペルチェ効果が検出された。これはナノ電子デバイスの宿命ともいえる発熱問題への解決方策を与える可能性を秘めており、本研究課題の達成へより柔軟な素子構造の着想が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
純スピン流注入による高精度且つ高効率な多磁区構造の制御技術を確立する。更に、再現性の良い純スピン流注入による磁区制御の確認、及び制御電流の低消費電力化や、より多くの安定した多磁区構造状態が得られる微小磁性体の構造を数値計算も用いながら実証する。 その上で、横スピンの吸収強度が縦スピンに比べて10倍以上大きい選択性の高い物質の探索を継続する。さらにスピン吸収体の吸収界面に選択性を与えた三次元的なスピン吸収やスピン依存ペルチェ効果を交え、素子の最適化を行うことを検討している。
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