研究課題/領域番号 |
14J05906
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
栗原 一樹 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 近赤外分光法 / 拡散光トモグラフィ / 光拡散モデル |
研究実績の概要 |
光・磁気共鳴マルチモーダルイメージングにおいて,ヒト頭部構造情報を考慮した脳機能計測を行うために用いる個人頭部モデルの構築および最適化の研究を行った.個人頭部モデルは,ヒト頭部MR画像を頭皮,頭蓋骨,脳脊髄液,灰白質,白質の5領域に分割することで構築されるが,灰白質,白質に関しては自動領域分割の手法が確立されているため,頭皮,頭蓋骨,脳脊髄液の領域分割を全自動で行うアルゴリズムを開発した.このアルゴリズムでは,各組織ごとに抽出に適した撮像パラメータで得られたMR画像を用いる.これらの画像に関して,抽出する境界ごとに閾値を決定して2値化し,誤抽出領域を画像処理で取り除くことで,領域分割を行う.46名の被験者のMR画像をこのアルゴリズムで領域分割し,それぞれマニュアルによって領域分割した結果と比較し,最適な閾値の選定法と,後処理のアルゴリズムの評価を行った.また,従来の頭部モデルでは無視されていた脳表の血管構造に着目し,MRAから抽出した血管構造を付与した頭部モデルを構築して光の伝播をシミュレーションし,ヒト頭部内における光の拡散に血管構造が及ぼす影響を検討した. 近赤外分光法による計測では,頭表上に配置したプローブペアの計測領域は光の散乱によって広がりを有している.この広がりを,自動で構築した頭部モデルを用いてシミュレーションによって推定し,頭部モデル上に脳機能画像を再構築した.このさい,複数の照射,検出プローブ距離を持つようなプローブ配置でシミュレーションを行った.プローブペアの計測領域はプローブ間距離に密接な関わりを持つため,このようなプローブ配置を用いることで,深さ方向の測り分けを行い,3次元での脳機能画像が再構築できるようになった.また,実測で3次元画像再構築を行うために,自動ステージを購入し,生体模擬試料を対象に計測を行えるようセッティングした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の目標は,MR画像の領域分割の自動化,四面体で構成された光伝播モデル内でのモンテカルロ法による光伝播解析のアルゴリズムの構築,モンテカルロ法と有限要素法を組み合わせたハイブリッド法による光伝播解析法の構築,光・磁気共鳴マルチモーダルイメージングの脳機能画像再構築のアルゴリズムの構築とした. MR画像の領域分割は,各組織ごとに抽出に適したパルスシーケンスで撮像されたMR画像を用いることで,全自動での領域分割が可能となり,MR画像のパルスシーケンスの選定に関する研究をモントリオールにて国際会議で発表している.また,四面体で構成された光伝播モデル内でのモンテカルロ法による光伝播解析のアルゴリズムを開発し,MR画像を領域分割して構築した立方体ベースの頭部モデルを四面体モデルに変換して光伝播解析を行うことで,組織境界の局面を表現した,より正確な光伝播解析が行えるようになった.さらに,四面体モデル内でのモンテカルロ法による光伝播解析と,有限要素法を組み合わせたハイブリッド法による光伝播解析法は,バーミンガム大学との共同研究を継続しており,半球やヒト頭部モデル内でのハイブリッド法,モンテカルロ法による光伝播解析の結果を比較し,ハイブリッド法による光伝播解析の優位性を示す結果が得られている. 以上のような成果が得られているため,2014年度の研究目的はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
近赤外分光法による脳機能計測では,検出光は計測領域である脳を伝播する前後に,頭皮や頭蓋骨といった頭表組織を伝播する.このため,近赤外分光法の実測データは,脳における血液量変化のみではなく,皮膚における血液量変化に起因した信号を含んでいる.これまでの研究で行ってきた光・磁気共鳴マルチモーダルイメージングでは,血液量変化は脳においてのみ生じたと仮定して画像再構築を行っていたが,2年目の研究では,脳のみでなく皮膚においても血液量変化が生じた場合を仮定し,皮膚における血液量変化と脳における血液量変化を分離して再構築するアルゴリズムを構築する. また,実測データを基に3次元画像再構築を行うために,生体模擬試料を用いて実験を行う.生体模擬試料は,多層構造のものを用い,表層の吸収係数を変化させることで皮膚における血液量変化を模擬する.このため,形状は従来のような多層の平板状のものを用いるが,表層の吸収係数が変化できるようなものを作製し,実測する.このさい,3次元で画像を再構築するために高密度のプローブ配置で計測を行う.現在所持している実測装置はプローブ数に限りる.このため,実際には密度の低いプローブ配置で計測を行い,脳における血液量変化を模擬した吸収体の座標を,プローブ位置に対して相対的に変化させて実測を繰り返し,これらの実測データを合わせることで,高密度プローブ配置での実測を模擬して計測を行う.また,実測データを基に再構築した画像と,シミュレーションで再構築した画像を比較して誤差要因を検討し,シミュレーションへのフィードバックを行うことで,シミュレーション,画像再構築法の精度の向上を図る.
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