2015年度は,これまで拡散光トモグラフィに用いる頭部構造モデルでは無視されていた領域のうち,特に光伝播に大きな影響を及ぼすと考えられる領域を考慮した頭部構造モデルを構築し,これらが脳機能画像の再構成に及ぼす影響の評価を行った.また,実測データから脳機能画像の再構成を行うために,生体模擬資料を用いて計測を行った. これまでの頭部構造モデルで無視されていた領域として,大脳縦裂に沿って走行する血管である矢状静脈洞,また,頭蓋骨前頭部に存在する空洞である前頭洞に着目した.矢状静脈洞は高吸収,前頭洞は低吸収かつ低散乱であるため,周囲の組織と比して光学特性値の非均一性が非常に高い.それぞれの領域をMRA,X線CT画像から抽出し,これらを考慮した頭部構造モデルを構築して拡散光トモグラフィのシミュレーションを行った.この結果,脳機能画像の空間分解能に影響するパラメータである正則化パラメータを大きく設定した場合,設定した脳賦活部位よりも大きく広がって脳賦活部位が再構成されたが,矢状静脈洞,前頭洞の領域を考慮した再構成画像,無視した再構成画像に差はみられなかった.しかし,正則化パラメータを小さく設定した場合,矢状静脈洞,前頭洞を無視した脳機能画像はノイズに埋もれて脳賦活部位の特定が難しくなり,また,矢状静脈洞,前頭洞を考慮した脳機能画像では高い空間分解能で賦活部位が正確に再構成された.以上の結果から,矢状静脈洞,前頭洞を考慮することによって,より正確に脳賦活部位を推定できることが明らかになった. また,2014年度の予算で購入した自動ステージを用いて,生体模擬資料を対象とした拡散光トモグラフィの実測を行った.自動ステージを用いることで,測定の際の時間が大幅に短縮され,測定精度が向上した.このため,より多くのプローブ・ペアを配置することが可能となり,高精度な拡散光トモグラフィの実測が可能となった.
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