研究課題
2頭の再認記憶課題訓練済みのサルに対して確信度判断課題を訓練し、課題遂行中の全脳の活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により計測した。確信度判断には,賭けパラダイム(Bet paradigm) (Middlebrooks and Sommer, 2011)を用いている。この確信度判断課題は、先行する再認記憶課題において正解したと思われる時は「高確信度」のターゲット、そうでない時は「低確信度」のターゲットを選ぶような戦略をとると、与えられる報酬の期待値が最大化するようにデザインされている。実際に、fMRI実験中に、サルが高確信度ターゲットを選んだ場合と低確信度ターゲットを選んだ場合の、先行する再認記憶課題の成績を比較すると、安定して前者の方が後者よりも有意に高くなっていた。このことから、サルは記憶の確信度(メタ記憶)に基づいて課題を解いていたと考えられる。そこで、fMRIにより取得した画像をもとに、記憶の確信度判断に関わる領域を同定した。すると、当初の予想と異なり、記憶の確信度判断のコアとなる領域が、想起する記憶の種類によって異なることが新たに見出された。従来は、メタ記憶のような高度な情報処理プロセスについて研究を行うのは、ヒト以外の動物種においては困難と考えられてきた。本研究の成果は、記憶の確信度判断に関わる大脳処理ネットワークが、言語による思考能力を有さない霊長類においてもヒトと同様に存在し、そのネットワークが大脳皮質の広範な領域に広がっていることを初めて示したという点で大きな意義があると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画のとおり、平成26年度中に、メタ記憶課題遂行時の2匹のマカクサルの全脳活動を記録するためのfMRI実験を行った。解析の結果、両方のサルに共通する複数のメタ記憶処理に関わる領域からなるネットワークを同定した。本研究は3年の研究期間の間に、1)サルのメタ記憶ネットワークを同定し、2)そのネットワークに実験的介入を行った際のサルの行動に与える影響を観察することを目標としている。2つの大きな目標のうち、前半部1)がすでに達成され、順調に研究が進捗していると言える。また、平成26年度中には、後半部2)の準備として他のサルを対象とした予備実験を行い、神経活動を記録しながら介入を行う方法を確立した。
当初は、Tet-on配列を持つAAV9ベクターを用いて遺伝学的介入を行い、記憶の確信度判断関連領域を不活化した時の行動指標への影響を観察することで、メタ記憶関連領域の活動とサルの行動との間の直接的因果を調べるという研究計画を立てていた。しかし、この手法は、ベクターを感染させた領域の神経活動を、経口投与したドキシサイクリンの働きによって制御するという方法に拠っており、fMRI実験で同定した複数の確信度判断関連領域の神経活動を別々に抑制することが出来ない。そこで、ムシモル(GABAA 受容体アゴニスト)を用い、fMRI実験によって同定されたそれぞれの領域に対して別々に薬理学的介入を行い、それぞれの介入による行動指標への影響に乖離が見られるかどうかを検討するという研究計画を新たに設計した。この薬理学的介入実験によって、fMRI実験から導かれた「記憶の種類によって確信度判断に寄与するシステムが変わる」という仮説が直接検証されることが期待される。この実験を平成27年度に行うことを計画している。
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PLOS Biology
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Clinical Neuroscience
巻: 32(12) ページ: 1431-1433
Behavioural Brain Research
巻: 275 ページ: 53-61
10.1016/j.bbr.2014.08.046.