研究課題
研究計画に従って、2頭のマカクサルに確信度判断課題を課し(前年度までに訓練済み)、課題遂行中の全脳の活動を機能的磁気共鳴機能画像法(fMRI)により計測した。確信度判断には,賭けパラダイム(Middlebrooks and Sommer, 2011)を用いている。この確信度判断課題は、先行する再認記憶課題において正解したと思われる時は「高確信度」のターゲット、そうでない時は「低確信度」のターゲットを選ぶような戦略をとると、与えられる報酬の期待値が最大化するようにデザインされている。実際に、fMRI実験中に、サルが高確信度ターゲットを選んだ場合と低確信度ターゲットを選んだ場合の、先行する再認記憶課題の成績を比較すると、安定して前者の方が後者よりも有意に高くなっていた。このことから、サルは記憶の確信度(メタ記憶)に基づいて課題を解いていたと考えられる。そこで、fMRIにより取得した画像をもとに、記憶の確信度判断に関わる領域を同定した。すると記憶の確信度判断のコアとなる領域が想起する記憶の種類によって異なることが新たに見出され、その結果は2頭のサルの間で再現した。前年度の報告書にも記載したように、サルのfMRI実験で同定した複数の確信度判断関連領域の神経活動と行動との直接的な因果関係を調べるために、研究計画を変更した。具体的には、GABAA 受容体アゴニストを用い、fMRI実験によって同定されたそれぞれの領域に対して別々に薬理学的介入を行い、それぞれの介入による行動指標への影響に乖離が見られるかどうかを検討する実験デザインを設計した。fMRI実験を行った個体と同じ2頭のサルに対して、この実験を行ったところ、介入を行う記憶の確信度判断のコアにより、その行動指標に及ぶ影響が異なり、fMRI実験から導かれた「記憶の確信度判断のコアとなる領域が想起する記憶の種類によって異なる」という仮説が行動実験において直截的に証明された。
2: おおむね順調に進展している
当初はfMRI法によって同定されたメタ記憶関連領域に対して、Tet-onシステムを用いた遺伝学的介入実験を行うことを計画していた。しかし、実際にfMRI実験を行うと、確信度を判断する記憶の種類によって、賦活する領域が異なり、記憶のシステムごとに、別々のメタ記憶処理システムが存在することが確かめられた。当初計画していた遺伝学的介入の実験系を用いる場合、Tet遺伝子を発現させた領域を全て同時に抑制することは可能だが、複数の領域をそれぞれ別個に抑制することは不可能である。そこで、当初の実験計画を変更し、ムシモル(GABAA 受容体アゴニスト)を用い、fMRI実験によって同定されたそれぞれの領域に対して別々に薬理学的介入を行い、それぞれの介入による行動指標への影響に乖離が見られるかどうかを検討する実験デザインを設計した。当初の計画では、平成27年度中に遺伝学的介入実験を行う予定であったが、その代わりに、薬理学的介入実験を行った。本研究課題に必要なデータの取得をほぼ完了し、おおむね順調に進捗している。
平成27年度までに取得した実験データをまとめ、研究成果を原著論文の形で発表する。さらに、本年度中に、本研究課題の続きを、英国オックスフォード大学実験心理学部との共同研究で開始することを予定している。サルのメタ記憶システムに介入を行った際の、全脳の神経処理ネットワークの変化をfMRI法にて計測する研究計画を策定している。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
PLOS Biology
巻: 13(6) ページ: 1-31
10.1371/journal.pbio.1002177
Scientific Reports
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http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/pupillary-reflex-enhanced-by-light-inside-blind-spot.html
http://www.u-tokyo.ac.jp/content/400038168.pdf