本年度、申請者は鈴木啓介教授の元、プルラマイシン類の合成を指向した、α-C-グリコシド結合構築法の研究に携わった。プルラマイシン類は、アグリコンのアントラピラン骨格に対し、L-バンコサミン及びD-アンゴロサミンの二つのアミノ糖が、それぞれC-グリコシド結合した構造を持つ天然物群である。その特徴的な構造から、これまで数多くの合成研究がなされてきたが、プルラマイシン類に多く見られるL-バンコサミンのα-C-グリコシド結合の構築法は、未だ見出されていない。これは、αグリコシドは一般的に、βグリコシドと比較すると熱力学的に不安定であり、種々の反応条件において、β体への異性化が進行してしまうためである。 今回我々は、新たに設計したバンコサミン前駆体を利用することで、α-C-グリコシド結合構築法の開発に成功した。バンコサミンのC5位の立体が反転し、脱離基Xを持つバンコサミン前駆体と、ナフトール誘導体とのグリコシル化反応により、β体のC-グリコシドを高収率で得ることに成功した。続いて、フェノール基の保護の後、塩基により脱離基を脱離させることで、C5位をオレフィンへと変換した。最後に、立体選択的な水素添加反応を行うことで、C5位の立体を反転させることで、目的の立体構造を有したα-C-グリコシド体を合成することに成功した。 本合成手法は、安定なβ体のグリコシドを経由して、合成の終盤でα体への変換を行うことから、実際のプルラマイシン類の全合成への展開が期待できる。
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