スピン波は近年新しい情報キャリアとして注目されており、その非線形応答の一種である磁気ソリトンは形状を保ち長距離伝搬する特徴を持つため、長距離情報伝達に応用できる可能性がある。本研究では局所的に磁化にトルクを与えることで効率よくスピン波を励起して磁気ソリトンを形成することを目指し、伝導電子と磁化の間に働くスピントランスファートルク(STT)に着目した。 STTとスピン波の相互作用を調べるため、線幅2.0 μm、膜厚190 nmのNiFe細線にスピン波を励起し、さらに電流を印加した。伝搬するスピン波の共鳴周波数を測定したところ、スピン波の共鳴周波数は電流に比例してシフトした。シフト量は従来研究の約60倍となり、STTの理論からは説明できないほど巨大であった。これはSTTとは別の寄与があることを示唆している。本研究では従来研究の約10倍の膜厚のNiFe細線を用いたため、これまで考慮されていなかったNiFe細線内の内部磁場分布がスピン波の共鳴周波数の変化に寄与したと考えられる。 また、細線中では内部磁場分布によりスピン波の閉じ込め効果が発現する。閉じ込め効果とは、細線中の内部磁場分布によりスピン波の伝搬領域が局在化する現象である。本研究では線幅2.5 μmのNiFe細線内でスピン波を干渉させ、細線上のスピン波強度の二次元空間分布をmicro-focusedブリルアン散乱分光装置を用いて測定した。スピン波の伝搬領域は細線中央部に局在化し、伝搬領域の幅は内部磁場分布から予想される幅の60 %以下となった。細線中を伝搬するスピン波には伝搬領域の両端を固定端とする量子化モードが励起し、量子化モードの干渉により局在化が強められたことがわかった。磁気ソリトンの励起には、スピン波の波束の拡散と集束が釣り合う必要があり、細線におけるスピン波の閉じ込めは集束効果として磁気ソリトン形成への応用が期待できる。
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