研究課題/領域番号 |
14J06009
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
関藤 麻衣 東北大学, 環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / トラベルコスト / 訪問行動 / 年間地震回数 / 年間平均放射線量 |
研究実績の概要 |
本年度は、トラベルコスト法マルチサイトモデルを用いて、2011年に発生した東日本大震災を起点にした4つの期間における人々の訪問行動を観察した。目的地選択に関する選好を詳細に把握することで、人々がどのような都市を好んで訪問するのか、また東日本大震災の影響が目的地選択にどのような影響を与えたのかを定量的に把握した。トラベルコストに関するデータはアンケート調査により取得した。 期間1(2010年4月1日から2011年3月10日)、期間2(2011年3月11日から2012年3月31日)、期間3(2012年4月1日から2013年3月31日)、期間4(2013年4月1日から2014年3月31日)の4つの期間における人々の福島県への訪問行動を尋ねている。マルチサイトモデルは複数のレクリエーションサイト間の選択に基づいて評価を行う手法である。本研究では、東日本大震災前後における訪問地の環境変化と人々の訪問確率の関係から環境変化の価値を評価することを目的とし、県北・郡山地区(福島市・郡山市周辺)、会津地区(会津若松市周辺)、相双地区(南相馬市周辺)の3つのサイトを設定した。 推計結果から東日本大震災の前後で人々の福島県への訪問に関する選好が大きく異なることが明らかとなった。期間毎の回答者数および年間地震回数限界支払意志額(Marginal Willingness to Pay)を見ると、震災以降減少していた訪問者数が震災から2年後(期間4)において回復傾向にある一方、年間平均放射線量に関しては継続して人々の訪問地選択に影響を与え続けている事が明らかとなった。今後は今回の推計では誤差項に含まれている個人属性や訪問の目的などの要因を詳細に推計に取り入れ、より具体的な人々の訪問行動の選好を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、早急な合意形成かつ社会費用の低い効率的な施策実行のための社会選択の方法を、環境経済学と行動科学のアプローチを用いて明らかにすることである。特に今後の復興施策や持続可能な社会構築の課題とされる(1)災害廃棄物処理地の選定(2)被災者の居住地の選択(3)復興関連の技術や方法の選択に関する人々の選考の理解に取り組む。本年度は東日本大震災以降の人々の移動行動に着眼し、訪問地の選択や公共交通機関の選択に関する人々の選好の理解に取り組んだ。 本年度の成果から強調できることは大きく二点である。まず一点目に東日本大震災を契機に人々の訪問地選択に関する選考が変化しており、さらには期間を置くことでもその選好が変化する点。そして二点目に災害による影響が必ずしも負に働くわけではなく、かえって人々が進んで訪問する要因になりうる場合もあるという点である。 これらの研究成果は、本研究課題(2)被災者の居住地の選択(3)復興関連の技術や方法の選択に関する人々の選好の理解に関する社会選択に関して、今後の社会作りや都市計画に新たなインプリケーションを示唆できるものである。 また本年度は平行して、次年度に行う人々の居住地選択の選考を推計するためのアンケート票の作成にも取り組んだ。さらに、昨年度の研究成果を2本の英語論文にまとめ海外ジャーナルに投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、東日本大震災以降の人々の居住地選択に関する選考の理解に取り組む。従来から存在する環境問題の重要性の高まりに加え、東日本大震災を契機とする社会・経済情勢の変化により、環境や防災といった要素を十分に考慮した持続可能な社会構築が望まれている。また今後は、将来の人口減少や高齢社会を見越した上での都市計画が重要となる。そのため、本研究では家族特性や個人特性を考慮したアンケート調査を行い、人々が現在どのような都市を好んで暮らしているのか、さらにこれから新たな土地に引っ越す場合、どのような都市が好まれ選択されるのかを詳細に推計する。 具体的には、都市の経済的な水準、政策の種類や内容、公共政策、労働、環境、防災など様々な観点から人々に望まれる都市の期待値を推計する。以上の研究は、(2)被災者の居住地の選択に関して、東日本大震災で被災した地域の都市計画だけにとどまらず全国の都市において利用可能なツールとして利用できる可能性がある。 研究スケジュールとしては2017年7月にアンケートを実施し、2017年中に推計結果をまとめる予定である。また同時並行して、三年間の研究成果をまとめ海外ジャーナルへの投稿や発表を行う予定である。
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