研究課題/領域番号 |
14J06037
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
設樂 久志 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 線虫 / Ca2+イメージング / 行動 / cGMPイメージング / 感覚受容 |
研究実績の概要 |
線虫嗅覚神経細胞AWCのにおい応答感度は、シグナル伝達の上流でイオンチャネルを制御するcGMPによってコントロールされると考えられている。前年度に引き続き、線虫のcGMP測定で報告例(Couto et al., 2013)があるcGMPインディケータを用いて、cGMP応答を明らかにしようと試みた。AWC単一神経細胞において実際ににおいに暴露される樹状突起の末端(繊毛)に注目してcGMP応答を見てみると、におい刺激を加えたタイミングでcGMPが一過的に減少し、においを取り除いてもcGMPは変化しない結果が得られた。また、樹状突起と細胞体では、におい刺激が与えられている間、有意にcGMPレベルが上昇することがわかった。繊毛での応答は感度に関わるcGMPの役割を示す一方で、細胞体での応答はにおい順応に関わる役割を示していると考えられる。これらの結果は、におい刺激に対し単一神経細胞内で部位特異的にcGMP応答を示すことをはじめて明らかにし、遺伝子レベルで報告されていたcGMPの役割を時空間的に説明できた点に意義がある。また、感度を調べるにあたり、線虫が正確にかぎ分けることのできる濃度差をCa2+イメージングを用いて調べ、線虫が非常に小さな濃度差でもにおいを感受することができることも明らかにした。 一方で、行動が感度を制御することを明らかにするために、自由行動下で線虫行動の情報をフィードバックして刺激を与えるための系の開発を行った。フィードバックを行うと処理時間が追いつかないという問題が新たに生じたため、Matlabを用いて作成したプログラムをC++上で動くように作成し直した。すでに感度に関わるcGMP応答と線虫が正確にかぎ分けることのできる濃度差は調べられているため、こうした知見を行動指標と組み合わせることで行動と感度の関係を調べることができる。従って行動情報をフィードバックして刺激を与えることのできる本実験系は、行動と感度を調べる上で重要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は前年度に生じたcGMPイメージングで再現性が取れない問題から、まずcGMP応答性を評価することを目標に実験に取り組んだ。本年度では系を改善することによりcGMPが単一神経細胞内で部位特異的に異なる応答することを示すことに成功した。繊毛でのにおい刺激時にcGMPが一過的に減少するという今回得られた結果は、これまでの知見では推測することのできなかった結果である。本年度の当初の目的は単一神経細胞内におけるcGMPとCa2+の同時イメージングであったが、cGMPの応答性が先行研究で想定されていたものと異なったことより同時イメージングについては一部計画を修正した。具体的には、Ca2+イメージング法を用いて、線虫がどれだけの濃度差を正確にかぎ分けることができるかを調べ、cGMP応答から明らかにされる感度との関係を示そうと考えた。現在までに、におい濃度差に対してcGMP応答とCa2+応答に差があることが示唆されている。当初の計画から一部に変更はあるものの、新たな現象を発見しさらに研究を発展させることができた点から順調に進んでいると言える。 一方で、行動とイメージングデータの解析を行うプログラムの作成が2つ目の目的となっていた。現在作製した系では、線虫の神経活動や軌跡、刺激を入れたタイミングを取得することが可能になっている。本年度は先行研究にならい、軌跡から線虫の特徴的な行動を抽出する解析プログラムの作成までは達成された。従って2つ目の目的についても順調に進展していると言える。 以上より、新たな現象の発見があったことも踏まえ総合的に考えると、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現段階で、繊毛のcGMPがこれまで考えられていた応答と異なる挙動を示すことが明らかにできた。こうしたcGMP挙動とにおい感受感度の関係を明らかにするために、薬剤やにおい暴露による線虫外部の環境を変えてcGMP応答が変化するかどうかをまず調べていく。こうした結果とCa2+応答の知見を合わせてAWC単一神経細胞でのにおい感受感度の機構を明らかにする。また、同時イメージングについては申請書内ですでに記述した通り、複数の神経細胞でイメージングを行うもう一つのプランで実験を進めていく。感覚神経細胞の応答性が下流神経細胞に及ぼす影響を明らかにすることで、感覚神経細胞の感度を評価することができるのではないかと考えている。具体的にはAWCを含む複数神経細胞の活動を測定することでAWCの応答性と下流神経細胞の応答性の関係を明らかにする。 一方で、神経活動を計測しながら線虫の行動を記録し、解析する系を用いて感度と行動の関係を目指す。観察系と解析系についてはおおむね完成しているので、刺激を入れる条件を検討し、特定の行動下で刺激を入れた時のCa2+応答を調べる。行動に対応した形でCa2+応答に差を見つけることができれば、行動が感覚神経細胞の感度に影響を与えることを説明できると考えている。こうした結果に加えて、拘束下でのcGMPとCa2+応答の関係性を明らかにすることで、行動とにおい感受感度の背景にどの様なメカニズムがあるのか調べることができる。
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