可積分な離散戸田方程式との対応が知られているquotient-difference (qd) 法は、3重対角行列の固有値計算アルゴリズムとして著名であり、改良型のdqds法がLAPACKに実装され国際標準となっている。近年、こうした離散可積分系と数値計算アルゴリズムとの関係が注目されており、離散可積分系に基づいた「可積分アルゴリズム」と呼ばれる数値計算アルゴリズムが提案されている。本研究では、行列固有値計算のための可積分アルゴリズムに対して、行列が重複固有値をもつ場合の収束性等の性質を調べた。 上記の研究の発展として、平成26年度は離散可積分系と行列の逆固有値問題との対応を新たに発見した。逆固有値問題の重要な研究課題の1つとして、指定した固有値をもつ行列を構成するという問題がある。すべての小行列式が非負であるtotally nonnegative (TN) 行列の固有値計算アルゴリズムとしてdhToda法がある。dhToda法は、離散戸田方程式のある種の拡張である離散ハングリー戸田方程式の離散時間変数の発展に着目して定式化されている。そこで、離散ハングリー戸田方程式の離散空間変数の発展に着目して、ヘッセンベルグ型のTN行列に対する逆固有値問題の解法を構成し提案した。平成27年度は、平成26年度に引き続き、TN行列の逆固有値問題に離散可積分系の観点から取り組んだ。離散ハングリー戸田方程式を拡張させた拡張型離散ハングリー戸田方程式を新たに導出することで、任意の帯幅をもつTN行列に対する逆固有値問題の解法の開発に成功している。この成果は、2015年10月にアメリカ・アトランタで行われたSIAM Conference on Applied Linear Algebraにて講演を行った。また、国際学術論文誌Numerical Algorithmsに講演成果をまとめて投稿中である。
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