本研究は、神経系中間径フィラメントたんぱく質の1分子レベルでの重合動態を明らかにすべく、(1) 重合動態素過程の蛍光偏光顕微鏡観察と、(2) 生理的重合体表面の液中高分解能原子間力顕微鏡(AFM)観察とを両輪として進めているものである。 (1) 前年度の研究で有力候補となったニューロフィラメントMたんぱく質(NF-M)-緑色蛍光タンパク質融合体は、ウイルスベクターを作製したものの、実際の培養神経細胞内では共重合能や蛍光異方性が実用に十分でなかった。そのため、今年度も位置拘束的蛍光たんぱく質(FP)標識法の新規開発に注力した。他方、前年度に開発した方法は、これまで標的分子のC末端側α-helixに限られていた当該標識法の適用範囲を拡張するものであった。この方法をactin結合たんぱく質(ABP)への蛍光標識に応用すると、蛍光異方性のあるFP融合ABPを得た。よって、当該標識法自体は、NF-Mへの有効性は限定的だったとはいえ、位置拘束的FP標識法の応用範囲を広げうるものとして有意義だと考えられた。現在、NFおよびactinを題材として、新たな位置拘束的FP標識法と観察系とを開発中である。 (2) 細胞内線維露出法によるAFM観察について、振幅変調型AFMでの実験データを取得・整理した。培養細胞内NFの半その場観察に成功し、NF-Mを含む異種重合体の特徴と思われる約50-60 nmの周期構造を確認した。これは、精製NFを用いたAFM観察の既報を、より生理的な条件下での観察によって一部裏付けただけでなく、当該手法が細胞質性細胞骨格の半その場観察や、NF重合体の各要素の構成比や薬剤の効果等の微視的形態解析に有効な可能性を示唆した。以上の成果はMicroscopy (Oxf)誌へ掲載された。現在も超解像AFMにより好適な試料を作製するための機能化培養基板等の開発を続けている。
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