本研究は世界中のサンゴ礁で被害が報告されている黒帯病の進行要因解明を目的として、シアノバクテリアを含む微生物マットである黒帯がサンゴ組織に侵襲する進行速度が同一海域内においても群体ごとに差が認められた点に着目し、速い黒帯内の微生物群の特定を目指したものである。最終年度である本年度は、黒帯の進行速度差が認められた罹患サンゴ12群体間で全細菌プローブを用いたFISH法による病理組織学的観察を行い、黒帯から正常部にかけて組織断面に存在する細菌量を比較した。さらに前年度の結果で細菌のメタバーコーディング解析によって進行速度にArcobacter属細菌が有意に相関を示したことから、特異的プローブを用いて局在部位および存在量の相関性を確認した。また、これまでの黒帯病研究における既報から関与が予想された硫黄還元細菌、糸状の硫黄酸化細菌、Vibrio属細菌の特異的プローブで組織内の細菌局在性ならびに量の分布状況を確認した。 結果として、進行速度が速い黒帯では、表層のシアノバクテリア層が遅い黒帯と比較して厚く、細菌の存在量も多いことが明らかになった。また、Arcobacter属細菌はシアノバクテリア層の下方から基部にかけて広く観察され、速い黒帯に多く分布する傾向が認められた。また、硫黄還元細菌も速い黒帯病に多く認められたのに対し、既報において黒帯の侵襲に関与することが指摘されていた糸状の硫黄還元細菌は認められなかった。 以上のことから、最終年度にて目標としていた進行速度の速い黒帯病罹患群体において多く認められる細菌群の一つとして、Arcobacter属細菌を特定した。また、同属細菌の詳細な局在性も明らかにした。Arcobacter属細菌の一部は硫黄酸化能を有することが報告されていることから、同属細菌は、黒帯病内における硫黄循環に関与している可能性が考えられた。
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