研究課題
本研究は、中枢神経系でのNa+/Ca2+交換系(NCX)の生理病態的意義の解明を目指し、特に、てんかんや自閉症などの疾患におけるNCX1サブタイプと、その脳特異的スプライシングバリアントの機能的役割を明らかにすることを目的とする。てんかんは反復性発作を主症状とする慢性の脳疾患であり、てんかん発作の発症にはこれまでに、Na+チャネルをコードする遺伝子の変異といったイオンチャネルの異常や興奮性神経系の過活動、抑制性神経系の機能低下などが関与していると報告されている。また、てんかんモデル動物の脳海馬領域において細胞内Ca2+濃度が増加していることや、細胞内Ca2+恒常性を保つタウリンの前処置により薬物誘発性のてんかん発作が抑制されることなどが報告され、てんかん発作発現に対する神経細胞のCa2+恒常性破綻の関与が注目されている。また近年、NCX Reverseモードの阻害薬がてんかん発作発現に抑制的に働くことが報告され、てんかん発症機序に関わるCa2+恒常性破綻へのNCXの関与が強く疑われているものの、その詳細な役割は未だ不明のままである。そこで本研究は、てんかん発症機序におけるNCXの役割の解明に向けた最初のアプローチとして、ペンチレンテトラゾール(PTZ)誘発てんかんモデルマウスならびにてんかん原性獲得過程のマウスにおいて脳内NCX発現量変化を解析した。リアルタイムPCR法を用いた検討から、てんかん原性獲得に伴う海馬NCX1 mRNA発現量の経日的な低下を認めた。本研究結果から、PTZの慢性投与により、経日的なてんかん原性の獲得およびNCX1 mRNA発現量の低下が示され、NCX1発現量低下がてんかん原性獲得に重要な役割を果たしていることが示唆された。今後、てんかんの治療薬やNCXの阻害薬などを用いたより詳細な研究から、てんかん発症におけるNCXの病態的意義の解明が期待される。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、薬学部棟の耐震工事・研究室移設が重なり当初の予定通り遺伝子工学実験を行うことができなかった。しかし、中枢神経疾患におけるNCXの生理病態的意義に関する研究に関しては、てんかん原生獲得に伴うNCX1の経日的な発現変化を見出し、一定の成果を挙げていると考えられる。
てんかん病態におけるNCXの役割を解明すべく、NCXサブタイプの発現や経日的な変化の詳細を検討する。さらに、NCX1の選択的阻害薬であるSEA0400を用いて、ペンチレンテトラゾールによるキンドリング形成(けいれん発作の発現から全般発作への発展)におけるNCX1の関与について検討していく予定である。また、胎生期バルプロ酸投与マウスなど発達障害様の行動異常を示すモデルマウスにおけるNCXの役割を追究する予定である。
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Pharmacology, biochemistry, and behavior
巻: 126 ページ: 43-49