研究課題/領域番号 |
14J06155
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 辰典 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 個体間相互作用 / 薬物依存 / 精神疾患 / ストレス / 動物モデル |
研究実績の概要 |
これまでの研究から申請者は、マウス間相互作用を解析する新しい方法論の検討により、長期隔離飼育マウスでの精神的ストレス解析法(エンカウンター試験法)を見出した。本手法は、薬物依存や他の精神疾患モデル動物での神経ネットワーク解析に応用可能であると考えられる。 ここで、覚せい剤などの薬物依存患者では、薬物再摂取のみならず、心理的なストレスにより精神病様症状が再燃されること(フラッシュバック)が問題となっている。しかし非臨床レベルにおいて精神的ストレスによる再燃モデルは確立されておらず、その病態メカニズムや治療法は不明である。そこで薬物依存症における精神的ストレスによるフラッシュバックの神経化学的基盤を追究することを目的に、エンカウンター試験法を応用し、検討を行った。 メタンフェタミン(METH)およびコカインの慢性投与により行動感作を形成したマウスはエンカウンター刺激により多動を示し、薬物依存マウスの精神的ストレスによる新たな異常行動を見出した。さらにエンカウンター誘発多動に関わる脳部位について検討を行った。その結果、METH行動感作マウスではエンカウンター刺激により前頭前野、腹側被蓋野、背側縫線核において活性の増加が認められた。次に、本異常行動に対して改善作用を示す薬物について、まずセロトニン(5-HT)神経に着目し、検討を行った。5-HT神経作用薬がエンカウンター誘発多動に与える影響について検討を行った。その結果、5-HT1A受容体作用薬や5-HT2受容体拮抗薬の前投与によりMETH行動感作マウスのエンカウンター誘発多動が抑制された。さらにセロトニン再取り込み阻害薬によってもエンカウンター誘発多動の発現が抑制された。以上の成績は薬物依存症マウスでは精神的ストレスにより異常行動を示すこと、この異常行動の発現にセロトニン神経系の異常が関与する可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス間相互作用に着目し、薬物連用モデルマウスである覚せい剤及びコカイン誘発行動感作マウスが精神的ストレスにより多動反応という新たな異常行動を示すことを見出した。これはエンカウンター試験法を用いた薬物連用モデルマウスの精神的ストレス応答性の解析が薬物依存のフラッシュバックを再現する新たな評価系となる可能性を示している。 さらにエンカウンター誘発多動の発現時に特定の脳領域が活性化することを見出し、フラッシュバック現象にそれらの脳領域が関与する可能性を示した。さらに、エンカウンター誘発多動に対し、セロトニン神経作用薬が関与することを明らかとし、フラッシュバックの発現にセロトニン神経系が関与する可能性を示した。 これらの成果は薬物依存のフラッシュバックにおける脳内メカニズムの一端を明らかとしたものであり、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
精神的マウス間相互作用による行動学的変化及び脳内神経活性の変化に対する薬物の作用解析を行う。具体的にはモデルマウスでみられた行動変化、そして神経活性変化に対する抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、抗ADHD (注意欠陥/多動性障害)治療薬など各種薬物の作用を解析する。 また、精神疾患モデルマウスの個体間相互作用異常を引き起こす神経基盤の解析を行う。具体的にはc-Fos蛋白質発現解析において、精神的ストレス負荷によりモデルマウスで変化がみられた脳部位を中心に、in vivo 脳微小透析法を用いた神経化学的変化の解析や、環境要因によるエピジェネティクスへの影響について、ヒストン修飾やDNA メチル化解析を行う。また、標的部位での遺伝子発現解析(ドパミン、セロトニン、グルタミン酸、GABA 受容体を含むPCR アレイ等)を行い、mRNA発現解析により変化が認められた遺伝子については、その発現制御におけるエピジェネティックメカニズムの関与について検討する。
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