研究課題
エボラウイルスを含む多くのウイルスで、抗体依存性感染増強現象 (Antibody-dependent enhancement: ADE) が知られている。この現象は、抗体がFcγレセプターIIa (FcγRIIa) を介して細胞とウイルスとを架橋し、ウイルスの吸着効率が上昇することによって引き起こされると考えられている。FcγRIIaを介した細胞内シグナル伝達は、アクチン細胞骨格や膜の再構築に関与することがこれまでの研究から知られているが、これらの細胞内シグナルがADEに関与しているか否かについては明らかとなっていない。そこで、本研究ではADE抗体存在時のエボラウイルス感染における宿主細胞内シグナル経路やウイルスの侵入経路を、通常の感染と比較することによって、ADEに特異的なメカニズムを分子レベルで解明することを目的とした。昨年度は、シュードタイプウイルスを用いてFcγRIIa下流のシグナルである、Syk及びSrc Family PTKsがエボラウイルス感染におけるADEに関与していることを明らかにした。本年度はそれらの結果を実際のエボラウイルスを用いて確かめた。加えて、シグナルがエボラウイルス感染におけるADEにどのように関与しているのか解析した。結果、実際のウイルスでもFcγRIIaのCytoplasmic tailがADEに重要であり、またSrc Family PTKsの阻害剤であるPP2はADEを阻害することが判明した。一方で、Sykに関しては、実際のエボラウイルスを用いた結果、これまでの知見とは異なり、Sykを阻害してもADEは阻害されないことが判明した。また、ADE抗体存在時にはFcγRIIa 下流のシグナルであるSrc Family PTKsを介してウイルスの細胞内への取り込みが促進され、その結果ADEが引き起こされていることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、実際のエボラウイルスを用いて昨年度得られた結果を検証し、さらに同定したシグナルがウイルスの侵入過程のどのステップに関与しているか明らかにすること目的とした。そして以下の結果が得られたため、このような進歩状況の区分とした。1.共同研究者の協力を得て、米国のBSL4施設にて、実際のエボラウイルスを用いてエボラウイルス感染におけるADEが、Src Family PTKs阻害剤であるPP2によって阻害されるか検証した。その結果、実際のエボラウイルスでもPP2がADEを阻害することが判明した。2.ADE抗体で処理したウイルス様粒子(VLP)とコントロール抗体で処理したVLPを細胞に吸着させ、経時的に侵入ステップを蛍光顕微鏡下で観察を行った。結果、ADE抗体存在時にはVLPの細胞への侵入効率が上昇し、また、PP2がその上昇を阻害していることが判明した。
今後は、マウスモデルを用いて、エボラウイルス感染におけるADEが実際に生体内で起こるか、また起こった場合、PP2によってADEが阻害されるか検証する予定である。また、ADE抗体のアジュバントとしての可能性を検討するため、不活化ウイルス抗原をADE抗体と共にマウスに接種し、経時的に抗体応答、サイトカイン応答、細胞性免疫応答などの免疫応答の解析を行う予定である。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 20514
10.1038/srep20514.6