研究課題/領域番号 |
14J06189
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松川 浩二 東京大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | TDP-43 / FUS / Atg1/Ulk1 / オートファジー / 細胞間伝播 |
研究実績の概要 |
TDP-43タンパク質の細胞内封入体の出現がみられる筋萎縮性側索硬化症 (ALS) や前頭側頭葉変性症 (FTLD) などの神経変性疾患をTDP-43プロテイノパチーと総称するが、その発症機序は未だ明らかではない。これまでモデル動物としてトランスジェニックショウジョウバエを用い、TDP-43の過剰発現による神経変性機構の検討を行ってきたが、本年は得られた知見を哺乳類培養細胞、マウスモデルを用いた実験系に発展させた。 (1) 新規のALS原因遺伝子であるProfilin 1 (PFN1) と、TDP-43の相互作用に関する検討を行った。ヒト由来の培養細胞を用いて、家族性ALS変異型PFN1が内因性TDP-43の細胞内局在を核内から細胞質に移行させる事を示した。ショウジョウバエでみられた現象と同一のメカニズムが働いていると考えられた。 (2) トランスジェニックショウジョウバエを用いた検討から、TDP-43の結合標的であり、その神経変性に関与する因子としてAtg1/Ulk1を同定していた。そこで哺乳類培養細胞を用いて、TDP-43がAtg1/Ulk1の発現を制御する詳細なメカニズムを検討した。TDP-43の発現抑制により、Atg1/Ulk1タンパク質の発現が低下し、さらにその下流に存在するオートファジーの低下がみられる事を明らかにした。また、TDP-43によるUlk1の発現制御が、TDP-43のRNA結合能に依存する事を示した。 (3) TDP-43プロテイノパチーの哺乳類モデルの樹立を試みた。アデノ随伴ウイルス9型ベクターを用いて、TDP-43を神経細胞特異的に過剰発現するマウスモデルの確立を目指した。また、TDP-43と同様にALSの原因遺伝子であり、RNA結合性のタンパク質であるFUSの過剰発現マウスの樹立を同時に試みた。その結果、TDP-43およびFUSいずれもの過剰発現により、体重低下や運動機能障害を呈するモデルマウスの樹立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
TDP-43トランスジェニックショウジョウバエの解析により得られた知見を、哺乳類培養細胞などを用いた実験において再現する事に成功した。また、TDP-43プロテイノパチーモデルマウスの樹立に成功した。さらに、当初の予定に加えて、以下の2点に関して新たな進展があった。 (a) TDP-43によるAtg1/Ulk1の発現制御メカニズムをマウス神経芽細胞腫であるNeuro-2a細胞を用いて検討し、TDP-43がAtg1/Ulk1のmRNAに結合し、その発現を調節している事を示した。この結果をさらに検証し、TDP-43とAtg1/Ulk1 mRNAの結合配列を同定するため、新たな実験を開始している。新規のゲノム編集技術であるCrispr/Cas9システムを用いて、マウスUlk1の転写産物の3' 非翻訳領域上に存在する、”TDP-43が結合し得る配列 (UGリピート)” を含む領域をゲノム上から欠損させたNeuro-2a細胞株の樹立を試み、成功している。この細胞株を用いて、TDP-43とUlk1 mRNAとの結合の意義を検討していく。 (b) また、ウイルスベクターを用いてTDP-43やFUSを過剰発現するマウスモデルを作出し、ALS様の運動機能障害を呈するモデルマウスの樹立に成功した。さらに、TDP-43やFUSが細胞間伝播する可能性を検討した。その結果、免疫組織化学法により、FUSを発現するウイルスベクターの感染がみられた細胞の周囲においても、FUSが陽性となる神経細胞が存在することが示された。このことから、FUSタンパク質は神経細胞間で伝播したと考えられた。これは、先例のない新しい発見である。
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今後の研究の推進方策 |
TDP-43によるUlk1の発現制御メカニズムに関して、引き続きNeuro-2a細胞を用いて検討を行う。TDP-43とAtg1/Ulk1 mRNAとの結合の意義に関して、Crispr/Cas9システムを応用した検討を行う。また、転写や翻訳などの各種阻害剤を用いた実験により、TDP-43がAtg1/Ulk1の発現を制御するメカニズムの詳細を検討する。 さらに、TDP-43過剰発現マウスにおけるALS様の運動機能障害にAtg1/Ulk1が関与するか検討を行う。まず、Ulk1のノックアウトマウスを用い、TDP-43の過剰発現により運動機能障害を呈するか否かを検証する。 FUSが細胞間伝播するメカニズムに関して、次の検討を行う。まず、細胞間伝播を引き起こすFUSの分子種の同定を免疫化学法により試みる。また、エクソソーム分泌阻害により、エクソソーム放出の関与を検討するなど、細胞間伝播のメカニズムに迫る。さらに、培養細胞を用いて、FUS細胞間伝播のin vitroモデルの樹立を試み、そのメカニズムの解析に用いる。
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