研究課題/領域番号 |
14J06195
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
山本 紗知 一橋大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 行政法 / 環境法 / 行政計画 / ドイツ法 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、4月から9月まで、コンスタンツ大学(ドイツ)にて資料収集を行った。その間、定期的に開催される判例検討会にも足を運び、行政法・環境法を含む公法領域の最新判例に関する知見を得た。 滞在中から帰国後にかけて、これまでの研究の集大成となる論文を執筆し、平成27年3月にコンスタンツ大学へ提出した。同論文ではまず、今までの研究で明らかとなった多段階行政過程における課題、即ち計画の適法性確保の観点から、各計画段階に求められる衡量の内容・質を明確にしておくことの必要性を踏まえつつ、ドイツの空港整備事業に関する許可決定に際して、航空騒音の影響を被る周辺住民の権利・利益が市民参加手続を通じてどのように行政過程へ取り込まれ、考慮されるべきかについて述べた。その上で、違法な許可決定の取消しを求める周辺住民に対して、権利・利益侵害の様々な態様に応じて、裁判所がどのような救済可能性を与えているかについて論じた。更に、大規模事業の周辺住民の生活環境利害を巡る日本の法状況について著名な裁判例を挙げつつ言及し、ドイツ法との比較も盛り込んだ。 平成27年2月24日から3月19日まで、上記論文を提出し、評価を得る目的でコンスタンツ大学に滞在するとともに、シュパイヤー行政大学院で開催された計画法学会へも参加し、ドイツにおける空港整備事業に関する事案で、近年、飛行方式の決定に伴う航空騒音の影響と市民の権利・利益保護の在り方を問う裁判例が蓄積していること等、最新の知見を得た。ドイツにおいて飛行方式の決定は、計画決定の性質を持つことが明らかになっているが、その適法性要件や裁判所の審査方法については未だ議論が多い。これについて、日本における研究はまだない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドイツでの資料収集は滞りなく進行し、現地の研究指導体制も充分に機能した。 これまでの研究成果は論文の形式でコンスタンツ大学に提出されたが、更に精緻化され、わが国でも近いうちに公表されなければならない。 従前、研究の大きな柱の一つとして、エネルギー関連の施設設置事業を巡る多段階行政過程の検討を予定していたが、研究の進行を経て、引き続き空港整備事業を中心に据え、エネルギー関連施設設置事業は必要な範囲内で簡潔に扱うこととした。立地決定から許可決定へという一連の過程を超え、立法上は分離した手続構造がとられているが、事業に関連性を有する行政決定にも着目する。それにより、一つの大規模事業をより多面的に、かつ一貫性をもって検討することが可能となるからである。研究課題の枠内におけるそうした若干の方向転換はあったものの、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ドイツでの研究滞在で得た知見等をこれまでの研究に取り入れつつ、ドイツのみならず、日本でもその成果を公表できるよう、準備を始めている。研究会への参加等を通じて、ドイツ法のみならず日本法の動向も観察し、行政計画に関連する判例評釈の公表も予定している。 今後は更に、空港整備事業に伴うことの多い、空港周辺上空での飛行方式の決定過程について、論文を公表したいと考えている。飛行方式の決定自体は、周辺の航空騒音を大きく左右することから、既に研究を行った空港の立地決定と同様に、総合的観点から様々な対立利害を調整することが必要な一計画決定であるとされる。それが空港整備事業の許可決定過程と立法上・実務上どのような関係にあるかを明らかにした上で、周辺住民の権利保護の充実に不可欠ないくつかの課題を分析する。分析の観点として、例えば、環境影響評価手続・市民参加手続や、事業の許可決定との関係で求められる衡量内容の在り方等を考えている。
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