糖脂質のガングリオシドGM3は、種々のシグナルタンパク質と細胞膜上で集合体“膜マイクロドメイン”を形成し、分化や増殖などのシグナル伝達を制御すると考えられている。しかし、利用できる分子ツールが限られていることや、脂質分子の解析の困難さから、その実態は未だ明らかになっていない。本研究ではこれまでのGM3プローブの問題点を解決する代謝安定型の光親和性GM3プローブを提案し、その創製に取り組んだ。本年度はガン細胞を用いてアルキンタグの導入位置が異なる4種類のGM3アナログの生物活性を評価した。その結果、末端アルキンを有するアナログが元のGM3アナログと同様の生物活性を示し、末端アルキンの導入がGM3アナログの生物活性に殆ど影響を与えないことを確認した。一方、内部アルキンを有するGM3アナログは細胞毒性を示し、脂肪鎖に導入したアルキンの位置の違いによって糖脂質アナログの生物活性が変化するという興味深い知見を得ることができた。 一方、新規光反応性基の開発に向け、本年度はカルボニル型光反応性基を導入したマンノースプローブと精製コンカナバリンAとの光親和性標識を実施した。その結果、光依存的なプローブ-タンパク質間の結合を検出することに成功し、標識効率の面で改善の余地があるものの、設計した光反応性基が光親和性標識に十分利用できることを明らかにした。また、新規光反応性基の開発過程ではユニークな二つの光反応を発見した。特に光誘起型カップリング反応は、アルコールやアミドなど様々な分子のC-H結合を直接官能基化でき、光親和性標識へと応用可能であると考えている。
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