我々は、パーキンソン病(PD)関連化学物質MPP+をヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞に低濃度かつ慢性的に曝露することで、よりPDの病態に近いことが期待される細胞モデルを構築した。このモデルは神経変性疾患特有の緩慢な細胞死を特徴とするほか、早期から細胞内タンパク質分解機構の一つであるオートファジーの機能低下を示した。この結果は、オートファジーの持続的な活性低下がPD発症につながる可能性を示しており、このモデルにおいて認められる緩慢な細胞死とオートファジー機能低下との関連性を明らかにすることは重要である。 本年度は、まず、低濃度MPP+によるオートファジー阻害メカニズムの解明に取り組んだ。オートファジーの下流において重要な役割を果たすリソソームの機能に着目して解析を進めた結果、低濃度MPP+はリソソーム内酸性度に顕著な影響を及ぼさず、代表的なリソソーム内加水分解酵素であるカテプシンDの活性低下を引き起こすことが明らかとなった。 ラパマイシン及びトレハロースはオートファジーを誘導すると共にリソソームの生合成を促進することが報告されているため、次に、これらを用いて低濃度MPP+によるリソソーム機能低下及びオートファジー阻害が細胞死に関与するか否か検討を行った。ラパマイシン及びトレハロースは低濃度MPP+によるオートファジー阻害及び細胞死を一部軽減したことから、本細胞モデルにおける細胞死にはリソソーム機能低下を介したオートファジー阻害が関与している可能性が示された。
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