研究実績の概要 |
新生児、乳児期の啼泣は、児の神経生理状態を測る簡便な指標として研究されてきたが(Soltis, 2004)、特に、主要な副交感神経系の一つである迷走神経は、心拍の変動や声帯の緊張緩和に関与し、啼泣の基本周波数(F0)に影響すると考えられている。先行研究で、早期に出生した児ほど新生児期の自発的啼泣のF0が高いことが明らかになっているが(Shinya et al., 2014)、早産児の自発的啼泣のF0の上昇は、迷走神経活動の低さに伴う声帯の過緊張が原因である可能性が考えられる。本年度は、この可能性を検討するため、修正満期の早産児と満期産新生児を対象に、自発的啼泣の音響特徴と自律神経(迷走神経)活動との関連を調べた。 本研究の結果、新生児期における自発的啼泣のF0は、睡眠時の迷走神経の活動レベルと関連する可能性を示した。早産児群では、睡眠時の自律神経活動が満期産児に比べて全般的に低かったが、早産児の中でも迷走神経活動が低い児ほど自発的啼泣のF0最小値が高かった。この結果から、睡眠時の迷走神経の活動レベルが低い児では、自発的啼泣時に声帯の過緊張が生じ、啼泣のF0最小値が上昇する可能性が示唆された。 今後の課題は、自発的啼泣の音響解析を、発達早期の自律神経活動を評価する簡便な指標の一つとして臨床応用する可能性を詳細に検討していくとともに、参加児のフォローアップを継続し、新生児期の自発的啼泣の音響・生理的特徴と乳児期の情動・認知発達との関連を縦断的に検討することである。
|