研究課題/領域番号 |
14J06314
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原 瑠璃彦 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 能楽 / 世阿弥 / 音 / 庭園 |
研究実績の概要 |
本研究は、能楽における音の表象の問題を総合的に考察しようとするものである。本年度の研究では、世阿弥作の能のうち、海辺を舞台とした《高砂》《難波梅》《箱崎》《呉服》等を主な対象とし、特にそこで重要な役割を持つモチーフ「松風」に注目した。この研究によって、和歌文学にはじまる「松風」の表象の系譜と、天台宗における当時の先鋭的な思想・天台本学論との関連のもとに、世阿弥の能において日本独自のサウンド・スケープ観が開花する過程が明らかとなり、従来の研究において指摘されていなかった、世阿弥の能作の特徴の一面が表象史的・思想史的に位置付けられることができた。 なお、上記の研究を行うための前提として昨年に行った、原型的な海辺の表象〈洲浜〉についての研究の成果は、第53回藝能史研究會大会(6月7日)において口頭発表「平安朝内裏歌合における舞台装置としての洲浜台――天皇との関わりに注目して」として発表した。 また、海辺を舞台とした能楽作品《善知鳥》についての口頭発表「The hunter in Soto-no-Hama of Noh “Utou” and performers」を8月28日~9月1日に国際パフォーマンス学会PSi 2015 TOHOKUのWorking Group(テーマ:Place)において行った。この発表内容はすでに論文としてまとめ、記録論集に投稿済みである。 また、昨年度、山口情報芸術センターでの「プロミス・パーク・プロジェクト [リサーチ・ショウケース]」展で展示した石の研究成果をより発展させ、本年度のムン・キョンウォン+ YCAM 「プロミス・パーク――未来のパターンへのイマジネーション」展(2015年11月28日~2016年2月14日)において発表した。 1月31日には、中国・広州の広東時代美術館の依頼のもと、〈洲浜〉の研究と石の研究を日本庭園の問題に特化して総合した講演「日本庭園における石立てと海辺の表象の系譜」を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、能楽における最も重要な人物である世阿弥の作品を対象として音の表象の問題の研究を行うことで、本研究の中心的な課題を達成できたと言えるため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、上述の通り、世阿弥の作品を主な対象として研究を行ったが、次年度では、まず、その成果を論文としてまとめて発表することが第一の課題となる。 また、当初、計画していたものの本年度中に取り組むことのできなかった2-2.世阿弥による雅楽の超克に関する研究を行うともに、平成28年度に実施する計画をしていた3.世阿弥以降の能における音の表象の研究を行う。後者の研究は、世阿弥の能において開花した日本独自のサウンド・スケープ観が、その後どのように継承され、また、発展していったかという問題を扱うものである。そこで対象となるのは、金春禅竹、観世元雅、金春禅鳳、観世信光らの能楽作品であるが、中でも重要なのは金春禅竹である。世阿弥の場合、上記の通り、とくに海辺を舞台とした作品が問題となったが、禅竹に関しては、その舞台は様々であり、世阿弥の場合とは異なった諸問題が現れることとなるだろう。また、禅竹は多くの能楽理論書を著しているが、そこでは本研究のキーワードとなる天台本学論が重要な要素となっており、そのような理論と、彼の作品との関係も注目されるところである。 なお、次年度には、「PSi 22 MELBOURNE Performance Climates」(平成28年7月5~9日)において、‘Nature’s Own Performance――Fujiko Nakaya’s Fog and Garden’という研究発表を行うことが決定している。これは、現代のアーティスト・中谷芙二子による人工霧を用いた作品が主な対象であるが、そこでは、日本の古典文化における〈霧〉の表象の問題の考察が要となっており、とりわけ、能楽をはじめとする中世の美意識における重要な「幽玄」の問題が論じられる。これは、能楽における自然の表象に関わる根本的な問題であり、本研究に大きな寄与をもたらすものと考えている。
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