研究課題
本研究は、有機ハロゲン代謝物の薬物動態、特に脳移行性について解析し、脳における有機ハロゲン代謝物の動態とリスク評価を体系化することを目的とした。初年度はその予備実験として、ウィスターラットを用いた4OH-CB107の投与試験を実施し、血液から脳・肝臓への移行と経時変化について検討した。加えて、ソフトウェアを用いたin silico解析により、環境汚染物質と数種のホルモンの物理化学性、薬物動態、毒性学的パラメーターを解析し、脳移行特性についての知見を収集した。はじめに、ラットに対する化合物の曝露経路に関して以下の3項目に焦点を当て検証実験を試みた:1)動物に対する曝露溶液・手法の安全性確認、2)標的臓器・組織への分布濃度、3)曝露経路による臓器・組織中濃度比較。項目1)の結果として、曝露から試料採取までの24時間においてラットに異変が見られなかったことから、投与手技や溶媒に問題のないことを確認した。項目2)については、血液・肝臓・脳試料に検出可能な濃度で分布することが示され(10-1200 pg/g wet wt.)、負荷量を算出した結果、血中に高割合で存在することが判明した(550 pg/blood、総量の0.8%)。項目3)では、両投与法について臓器間の濃度パターンは類似しており(血液>肝臓>脳)、先行研究の結果と一致していた (Meerts et al. 2002, Toxicol. Sci. 68, 361-371)。また、ACD/Perceptaソフトウェアを用いた化合物のin silico解析により、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)を始めとする環境化学物質344化合物を対象にその血漿タンパク結合性、脳内非結合率、平衡状態での血液-脳濃度比、化合物の脳浸透率、P糖タンパク・トランスポーターの基質特異性等のパラメーターを予測した。
2: おおむね順調に進展している
研究は順調に遂行でき、ラットを用いた有機ハロゲン代謝物のin vivo投与試験を中心とした本年度の目標はほぼ達成できたと考えている。OH-PCBsの血液から脳・肝臓への移行と経時変化について検討することにより、また化合物の物理化学的・動力学的・毒性学的パラメーターを解析することで脳移行特性について予測することができた。これらの知見は新規性が高く、研究の充実度は高いと自己評価している。
これまでの研究により、有機ハロゲン代謝物のin vivo投与試験やin silico解析を実施し、脳内に残留するこれら化合物の脳移行特性は、物理化学的パラメーターをベースとした受動拡散モデルでは説明できない点が多く、トランスポーターを介した能動輸送など、他の輸送・残留メカニズムが関与することを明らかにした。研究計画はほぼ当初の予定通り推進できており遂行上の問題はないが、これら化学物質の脳移行・分布メカニズムや中枢神経系に及ぼす影響を解明するためには、in vivo薬物動態解析を進めるとともに、投与試験で得られた臓器・組織の遺伝子発現プロファイルの変化を解析し、神経細胞を用いた毒性試験も併せて研究を進める予定である。
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Endangered Species Research
巻: 27 ページ: 113-118
10.3354/esr00655.
http://ecotoxiwata.jp/index.html