研究課題/領域番号 |
14J06348
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
落合 真理 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 有機ハロゲン代謝物 / 脳移行 / 環境汚染物質 / 鯨類 / 神経毒性 / ダイレクトリプログラミング |
研究実績の概要 |
本研究は、有機ハロゲン代謝物の脳移行性について解析し、脳における有機ハロゲン代謝物の動態とリスク評価を体系化することを目的とした。本年度は、鯨類の中枢神経系を対象に環境化学物質のリスク評価系の確立を目指し、ダイレクトリプログラミング法を用いた鯨類の線維芽細胞から神経細胞への分化誘導法を確立した。また、分化誘導した神経細胞を用いて、環境汚染物質の曝露に伴う神経毒性評価を検討した。はじめに、2015年に集団座礁したハクジラ類(カズハゴンドウ)5検体について組織を採取し、初代線維芽細胞を培養した。カズハゴンドウとヒトの線維芽細胞を用いて、ダイレクトリプログラミング法により神経細胞へ分化させた。誘導神経細胞について、免疫染色法により指標マーカーの発現を調べたところ、両種において幼若神経細胞(Tuj-1)と成熟神経細胞(MAP2)に関して陽性シグナルを検出した。次に、すでに動物実験にて神経毒性が証明されているシスプラチンを対象化合物とし、脳神経系に及ぼす環境汚染物質の影響をカズハゴンドウとヒトについて比較した。カズハゴンドウとヒトの誘導神経細胞に水酸化ポリ塩化ビフェニル (4'OH-CB72, 20 μM) とシスプラチン (40 μM) を24時間曝露し、TUNEL (TdT-mediated dUTP nick end labeling) 法により、アポトーシスの過程で生じる断片化DNAを検出した。結果として、ヒトでは両化合物において39%の細胞がアポトーシスを引き起こし、4'OH-CB72はシスプラチンと同程度の神経毒性を示すことが明らかになった。一方で、カズハゴンドウでは、シスプラチンで70-95%、4'OH-CB72では75-90%の細胞でアポトーシスが見られた。これらの結果から、カズハゴンドウの方がヒトよりこれらの化合物に対する感受性が高いことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究は順調に遂行でき、鯨類の中枢神経系に及ぼす環境汚染物質のin vitro影響評価法確立という本研究の目標はほぼ達成できたと考えている。ヒトの線維芽細胞で確立されているダイレクトリプログラミングの手法を用いて、鯨類についても線維芽細胞から神経細胞へ分化誘導できることが確認できた。また本研究は、ダイレクトリプログラミング法が野生生物に適用することができることを示した世界初の成果である。これらの結果は当初予定していなかった成果で、当初の予定以上の研究の進展があったと自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、鯨類の培養細胞を用いて、ダイレクトリプログラミング法により線維芽細胞から神経細胞へ分化誘導できることが示された。また、誘導神経細胞を用いて、鯨類の神経細胞への環境汚染物質の影響を直接評価することが可能となった。研究計画は当初の予定以上に推進できており遂行上の問題はないが、性質の異なる様々な環境化学物質について中枢神経系に及ぼす影響を解明するためには、より多くの化合物を用いた誘導神経細胞の毒性試験をするとともに、細胞培養できる鯨種を増やし、比較生物学的な観点からも知見を集積する必要がある。今後は、神経細胞を用いた毒性試験を充実させるとともに、これまでの結果を統合し、脳における有機ハロゲン代謝物の動態とリスク評価の体系化を目指して研究を進める予定である。
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