研究課題
尾藤晴彦研究室において開発された神経活動依存的なカルシウムシグナル経路の破綻をきたす複数のモデルマウスにおいて、繰り返し、行動柔軟性の評価を行ってきた。ある系統のマウスでは、非常に再現性の高い、顕著な行動柔軟性の低下を確認している。さらに、この系統のマウスにおいては、社会的相互作用の異常も見られており、本研究を進める上で大変重要な表現型を持っていることが確認出来ている。現在、この系統のマウスについては、これまでの行動柔軟性試験で得られたデータの詳細な解析を進めながら、その他の行動学的データの収集、また遺伝子と行動をつなぐ中間表現型データを収集し、論文発表に向けた準備を着々と進めている。一方、扁桃体の亜核に集積する分子のノックアウトマウスにおいても、集団飼育環境下での社会性行動の異常があることが確認されており、これについても論文化に向けて、さらなる仮説検証実験と、基礎的データの収集を進めている。特に今年度は、ウイルスを用いた遺伝子発現操作実験により、これまでの仮説をさらに強く支持する、重要な結果が得られている。以上に述べた通り、これまでカルシウムシグナル経路に係る遺伝子の働きと、ASDの中核的症状をつなぐ重要なモデルマウスの解析が進んでいる。これらのモデルマウスを手掛かりに、分子・細胞レベルから、回路、システム、行動レベルに至る、ASD中核症状の生物学的基盤の解明を今後とも推し進めていく。
2: おおむね順調に進展している
カルシウムシグナル経路に係る遺伝子の働きと、ASDの中核的症状をつなぐ、重要なマウスの解析が進んでいる。これまで特に二つの系統のマウスについて重要な知見を得てきたが、これらの学術誌での発表に向けて着々と補足的な実験を進め、必要なデータの収集が進んでいることから、研究プロジェクトとして順調に成果が得られていると考える。
二つの系統のマウスで見られた行動表現型(行動柔軟性の低下と社会的相互反応の異常)とカルシウムシグナル経路の機能異常とをつなぐメカニズムを明らかにするため、引き続き、観察された行動学的異常と関連のある脳内の細胞群・責任領域・回路の同定を進めていく。
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