研究課題/領域番号 |
14J06390
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
赤木 友紀 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | がん治療 / ハイドロゲル / 機能性プローブ / 光駆動型 / 熱分解性ポリマー |
研究実績の概要 |
本年度は、ゲルに対する色素・プローブの挙動および、細胞および組織への効果等の基礎的な検討(拡散・浸透挙動の調査、細胞実験、組織実験)を行った。 ゲルに対する低分子化合物(色素・プローブ)の浸透・拡散挙動の検討では、作製したゲルを3種類の色素・プローブ溶液に浸すことで浸透挙動を、また、内包したゲルの外液をPBSに変えることでゲルからの拡散挙動を調べた。その結果、色素・プローブの種類・濃度によらず速度定数は一定であり、また浸透・拡散速度は濃度を調整することで変更可能であることが明らかとなった。 細胞実験(ゲルから細胞へのプローブの取込み挙動)では、GGT (がん細胞で多く見られる酵素) 発現細胞に、gGlu-HMRG (GGTと特異的な反応する基質) を内包したゲルを乗せ、蛍光イメージング観察を行った。イメージング画像から、ゲルが置いてある箇所の蛍光強度のみが著しく増大し、拡散による溶液中のプローブ濃度よりも直に細胞と接する箇所のプローブ濃度が高く、細胞表面の活性を認識しやすい環境にあるとことが示唆された。 組織実験 (ゲルから細胞への色素・プローブの取込み挙動)では、ゲルに内包した色素・プローブと組織上の酵素との反応についての検討を行った。実験手法としては、組織(ささみ)に色素もしくはプローブを内包したゲルをのせ、蛍光イメージング観察を行った。本報告では、HMRGの結果のみについて言及するが、時間経過とともに蛍光強度はexponentialで増大し、Fitting結果より算出された速度定数はin vitroでの拡散速度定数と一致した。最終的には、組織内に取り込まれるはずだが、表面に付着しても蛍光は観測されるため、拡散速度定数に従って蛍光が増大したと推測される。 今年度の研究を通して、特異的環境下で機能するハイドロゲルを作製するための基礎固めが十分達成できたものと考えている
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、主にハイドロゲルに対するプローブの振る舞い、ゲル内に内包したプローブが機能するかを中心とした検討を行ってきた。得られた結果から、今回検討したプローブ群はハイドロゲル内に内包することができ、プローブ濃度を調整することで、浸透・拡散挙動をコントロール可能であることが示唆された。また、本研究テーマを遂行するにあたり、『接触により、ゲル内外の物質輸送が可能かどうか』という点について大きな懸念があった。一般的に、ゲルを用いた拡散実験では周囲に大量の溶媒がある条件で行われるため、接触(わずかな溶媒)のみでの物質輸送が行われるかについてはわからなかった。しかしながら、本実験を通して、細胞および組織にゲルを接触させることにより、ゲル内のプローブと組織・細胞上の物質との反応が可能であることが明らかとなった。これは、この研究テーマを遂行する上で重要な結果であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
ここまでは、プローブをより効率的に機能する足場材料としてゲルを用いた実験を行ってきた。この結果は、今後の研究の基礎となるが、今後は以下のようなゲルへの機能性付与に重き研究を進めて行く予定である。 熱分解性ポリマーの開発:生体適合性高分子として認可され幅広く医療材料として用いられているポリエチレングリコール(PEG)とポリアスパラギン酸(PAsp)との共重合体を用いる。抗がん剤を担持した熱分解性ハイドロゲルを構成する高分子の場合は、PEGとPAsp及びPAsp側鎖と抗がん剤間に熱によって壊裂するペルオキシド構造を組み込んだ高分子を合成する。またペルオキシド構造近傍の構造と分解温度との相関が既に明らかになっている為に、合成するプローブに対して最適な温度で分解が起こるような官能基を導入した高分子を合成する。 新規プローブの合成: GGTと反応する蛍光プローブの構造を基盤として、一部をアシンメトリーな構造にすることで目的の化合物を合成する。合成物はGGT溶液と混合し光を照射し、発生する熱をカロリーメーターで測定する。 合成が達成した時点でゲルを作製および評価を行う予定である。
|