本研究は、水源環境保全に関する環境支払いを、責任と費用負担の観点から検討し、望ましい環境支払いの制度設計に寄与することが目的である。最終年度に当たる2015年度は、2014年度に引き続き、本研究の基礎作業となる文献サーベイの実施を行い、EUで行なわれている環境支払いの実態の整理や、環境支払いと生態系サービス支払いとの理論的差異などの把握に努めた。特に対象とする水源環境が農山村に位置していることを踏まえ、水源環境という限定した範囲ではなく、総体としての農山村をどう維持していくかという観点から、ストック概念に注目した上で研究を進めた。水源涵養機能などのフローを生みだす源泉であるストック管理のためには、農山村の再生を検討する必要があること、その上で日本との地形的類似性や自然資源利用の共通性から、オーストリアの環境支払いに学ぶ点が多いことが分かった。 現地調査では、2014年度に引き続き、神奈川県の水源環境保全・再生施策に関する現地ヒアリング並びに資料収集を行なった。神奈川県では、大規模な公的管理・公的支援を通じて森林管理を行なっているが、事業終了後、所有者に森林を返還した際の森林管理が課題となっている。持続的な森林管理に向けて、制度を修正しながら森林管理を進めつつ、地域の担い手を育てることで、中長期的な視野に基づいた対策を進めていることが判明した。研究成果の一部は、日本森林学会の『森林科学』において発表を行なった。なお、2014年度同様、中国太湖流域の調査を実施する予定でいたが、調査同行者の諸事情により実施が困難となったため、2015年度は実施しなかったことを付記しておく。
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