研究課題/領域番号 |
14J06440
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
脇舎 和平 広島大学, 先端物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 希土類化合物 / 超伝導 / 多極子 |
研究実績の概要 |
近年、カゴ状化合物PrIr2Zn20において、四極子ゆらぎが超伝導クーパー対形成を媒介する新奇な超伝導状態の可能性が指摘されている。申請者は4f電子の多極子自由度と超伝導の相関を探るため、同型化合物であるPrOs2Zn20に着目し研究を行っている。これまでに、PrOs2Zn20は構造相転移をT=87 Kで示し、TC=0.06 Kで超伝導転移を示すことを見出した。 本年度は以下の実験を行った。
1. PrOs2Zn20における結晶場基底状態を決めることは、4f電子がもつ自由度と超伝導の相関を探るうえで必要不可欠である。そこで我々は、非弾性中性子散乱実験と0.04 Kまでの比熱測定を行った。INS実験では、Prイオンの局所対称性は構造相転移により低下し、結晶場基底状態が三方晶Gamma3A二重項である可能性が指摘された。この三方晶Gamma3A二重項は四極子の自由度に加えて、磁気モーメントの自由度をもつ。比熱測定では、0.7 K付近にブロードなピークを観測した。このピークがSchottky異常に起因すると考えると、Prイオンの結晶場基底二重項は二つの一重項に分裂していることになる。しかしながら、二重項が完全に分裂していると仮定すると、比熱の温度依存性を再現することができないため、部分的に基底二重項の多極子自由度が残っている可能性がある。 2. PrOs2Zn20における4f電子の多極子自由度と超伝導の相関を調べるため、4f電子を含まない非磁性のLaOs2Zn20の試料を作製した。交流磁化率測定により、LaOs2Zn20はTC=0.07 Kで超伝導転移を示すことが分かった。また、超伝導の上部臨界磁場から有効質量を見積もると、Pr系の方がLa系よりも1.7倍程度大きな有効質量をもつ。これは、4f電子の自由度と超伝導の間に相関があることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、磁場に対する磁化・比熱の異方性から結晶場基底状態を決定するため、単結晶試料を育成する予定であったが、物性測定が可能な単結晶試料は現在のところ得られていない。しかし、多結晶試料を用いた中性子非弾性散乱実験と極低温比熱測定により、結晶場基底状態に関する情報を得ることができた。また、PrOs2Zn20の超伝導機構の特異性については、4f電子を含まないLaOs2Zn20と超伝導特性を比較することにより、4f電子の自由度と超伝導の相関を示唆する結果が得られた。これらの内容については,国内外の学会で発表し、現在投稿論文を準備中である。以上のことから、本研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1. 中性子非弾性散乱により結晶場基底状態に関する情報が得られているが、PrOs2Zn20の低温相での構造が明らかでないため、解析結果に不確定な点が残っている。そこで、構造相転移温度以下で単結晶構造解析を行い、低温相の構造を決定する。
2. これまでにPrOs2Zn20については、単結晶構造解析に必要な数十マイクロメートル程度の単結晶は得られている。しかし、磁化・比熱、 NMR測定などに必要な数ミリメートル程度のものは得られていない。そこで、前年度に引き続き試料育成条件の最適化を行い、物性測定が可能な単結晶試料の育成を目指す。
3. PrOs2Zn20とLaOs2Zn20の超伝導特性の比較により、Pr系の方がLa系よりも1.7倍程度大きな有効質量をもつことが明らかになった。これは、4f電子の自由度と超伝導の間に相関があることを示唆する。今後は、(Pr1-xLax)Os2Zn20の合金を作製し, 電気抵抗率、交流磁化率、比熱を測定する。xの置換量に対する超伝導特性の変化を調べることで、PrOs2Zn20における四極子自由度と超伝導の相関をより詳細に調べる。
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