非受容体型チロシンキナーゼであるc-Srcは、がん形質の獲得に密接に関わっているが、その詳細なメカニズムは未だ不明のままである。我々はこれまで、miRNAを介したSrcがん化制御を明らかにしてきた。しかし、これまでの解析はすべて細胞レベルであり、これらの制御が実際に個体レベルにおいても機能しているかは不明である。本研究では、Srcがん化シグナルの制御に関わるmiRNAのノックアウトマウスを作成することで、個体レベルでのがん化における生理的意義の解明を目指した。 Srcによるがん化を抑制するmiR-Xについて、ノックアウトマウス(ESKO)を作製した。しかし、3ヶ月齢を経てもコントロールマウスと比較して外見上の差異は見られなかった。また、H&E染色を行い組織を詳しく観察したが、変化はなかった。これらの結果から、miR-Xは発生段階において、必須の機能を果たしていないと考えられる。 また、Srcがん化制御に関わる他のmiRNAについて、Floxマウスを得た後、腸特異的にCre遺伝子を発現するvillin-Creマウスと交配させ大腸特異的ノックアウトマウスを得た。現在、1ヶ月齢程度であるが、目視観察による外見上の差異は見られていない。今後、各種がん化モデルマウスとの交配により、miRNAが個体レベルにおいてもがん化を抑制するか検証する予定である。 本研究により、個体レベルにおけるmiRNAを介したがん化制御およびそのメカニズムが明らかとなれば、miRNAの重要性についての理解を大きく進展させるだけでなく、それらを標的とした新規がん治療薬の開発に貢献できるものと期待される。
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