研究課題/領域番号 |
14J06457
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 公人 九州大学, 数理学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 統計多様体 / 正規モデル / 対称空間 / リーマンしずめ込み |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き統計多様体、特に多次元正規分布からなる正規モデル上の測地線の研究を行った。 一般に多様体上の測地線の方程式はアフィン接続で記述される。正規モデル上の測地線を構成したEriksenの結果は、部分ブロック行列をとるというある種の射影がこの接続を不変に保つことで成り立っていると考えられる。従ってこの射影が微分構造の下で満たす性質を調べればよく、結論から言うとそれがリーマンしずめ込みと呼ばれるものになる。 Calvo-Ollerは正規モデルの正定値対称行列全体Pへの等長埋め込みを得ているので、Eriksenの結果はP内のある部分等質多様体の測地線の構成とみなすことができる.報告者は、この結果が成り立つ背景に次の事実があることを示した: 1. 正定値対称行列の首座小行列をとる自然な射影は、対称空間の間のリーマンしずめ込みである。 2. Pのある全測地的部分多様体Nがとれて、Nは実グラスマン多様体の非コンパクト双対空間に等長同型であり、かつ上の射影のNへの制限はリーマンしずめ込みであり、その像は正規モデルに一致する. 以上のことから、Eriksenの結果を次のように説明できる。つまり、多様体上の測地線の方程式はLevi-Civita接続を用いて表されるが、リーマンしずめ込みはこの接続を不変に保つ性質を持っているので、定義域となる多様体の測地線を像となる多様体の測地線に写す。上の正規モデルの場合、定義域は対称空間なので測地線が指数写像で与えられ、しずめ込みによって正規モデルの測地線が与えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正規モデルの測地線の構成が写像の微分幾何的な性質から完全に説明することができ、等質空間としての正規モデルの、対称錐の部分多様体としての特徴付けが得られた。これにより正規モデル上の調和解析を展開する準備ができた。これは対称空間の幾何としても興味深い結果で、測地的埋め込みに関する佐武の研究との関連性を明らかにすることが求められる。それだけではなく、リーマンしずめ込みを通して、より一般に調和写像または正則写像の研究へつながる可能性も出てきた。上の事実は対称錐の構造を利用したリーマンしずめ込みの構成例と捉えることができる。既にリーマンしずめ込みを利用した個別の多様体の間の調和写像及び正則写像の研究がなされているが、上で得た新しい例は簡単な場合である測地線に対する結果に対応している。
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今後の研究の推進方策 |
Calabiによる異なる対称空間への調和写像と正則写像の対応づけの別例を構成するために考察を進める。まずは対称錐から部分錐への自然な射影が調和写像であるかどうかを調べる。もし調和写像であるなら、リーマンしずめ込みであることと合わせて、対称錐への調和写像と正規モデルへの調和写像の対応を得ることができる。さらに正規モデル上の調和解析もそれでほぼ完了することになる。一方幾何学的な観点から、対称空間の間の測地的埋め込みを分類した佐武の仕事を参照し、自分が得たリーマンしずめ込みの位置づけを調べる。これを手がかりに、正規モデルの測地線の構成を楕円分布へ拡張できるかどうか考察する。またWasserstein幾何の例として正規分布族に定義される距離構造も考察する。この距離に関する測地線の構造も勾配流として得られるという結果があるので、これも対称錐やJordan代数の構造から解釈することを試みる。
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