食品成分の中でも特にロイシンは、タンパク質合成の基質となるだけでなく、骨格筋や肝臓においてタンパク質合成を促進作用することが明らかにされおり、加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)の治療法の一環として研究が行われている。ロイシン誘導性のタンパク質合成(翻訳促進)はmTORC1 というリン酸化酵素が4EBP1をリン酸化することにより媒介されている。一方、転写共役因子であるPGC1αは骨格筋代謝に重要であり、ミトコンドリア合成、赤筋化を誘導する。またPGC-1αにより筋萎縮が抑制、筋線維の肥大が生じることも報告されている。そこで本研究において、PGC1αがロイシン誘導性のタンパク質合成(翻訳促進)に寄与しているか骨格筋特異的PGC1α遺伝子欠損マウス(PGC1α KO)を用いて検討した。 24時間絶食させたマウスへロイシン溶液を経口投与し骨格筋、肝臓を採取した。次にウエスタンブロット法により4EBP1のリン酸化(mTORC1の活性化を示す)を検出した。その結果、野生型マウス(WT)の骨格筋ではロイシン投与により4EBP1のリン酸化が増加し、mTORC1の活性化が生じていた。しかし、ロイシンを投与したPGC1α KOの骨格筋においては、WTで見られたような4EBP1のリン酸化の増加がほとんど見られなかった。一方、PGC1αが欠損していない肝臓においてはWT、PGC1α KOの両マウスにおいてもロイシン投与による4EBP1のリン酸化の増加が確認された。 これらの結果からPGC1αはロイシン摂取による4EBP1のリン酸化の増加(mTORC1の活性化)に寄与していることが示され、ロイシン摂取によるタンパク質合成の促進にPGC1αが関与していることが示唆された。さらに本研究結果は、ロイシンの抗サルコぺニア作用機序の一端を明らかにしたものであり、サルコペニア治療法開発に貢献するものと考えられる。
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