研究課題/領域番号 |
14J06567
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
田口 ローレンス吉孝 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | アメラジアン / ハーフ / 混血児 / ミックス / 社会編成論 / 人種 / エスニシティ |
研究実績の概要 |
本研究で用いる「編成」理論の先行研究を整理した。さらに「編成」論において用いられる具体的な分析視角として、「体制(レジーム)」「分節化/節合(アーティキュレーション)」「投企(プロジェクト)」などの概念を抽出し、定式化する上で必要な先行研究を整理した(・「体制」…コンネル(2002)、ルーンバ(1998)など。 ・「分節化/節合」…ラクラウ(1977)、ラクラウ・ムフ(2001)、ホール(1996)、スラック(1996)など。 ・「投企」…サルトル(1960,1965)など)。また、「国立教育政策研究所教育研究情報センター教育図書館」や「外務省外交史料館」において、マクロレベルにおける「混血児問題」対策関連資料のデータを収集した(混血児問題対策研究所調査資料、混血児教育対策資料など)。フィールド調査では基地周辺地域における「混血児」や歓楽街の実態を明らかにするための資料収集を実施した(神奈川県、静岡県、広島県、山口県、青森県、大阪府、沖縄県)。特に沖縄では、社会福祉団体が主導となって行った混血児調査資料(『福祉協議会の混血児実態調査』(1962)、『福祉協議会の混血児実態調査』(1965)、『沖縄県における混血児の実態調査』(沖縄県教育振興会1976)、『米軍基地から派生する女性の諸問題調査事業報告書』(沖縄県男女共同参画室1999年))を新たに収集し、当事者団体であるアメリカ系うちなーんちゅの会」の定例会に参加し、会の近況報告などを含め参与観察を行うことができた。さらに、関東圏(主に東京・神奈川)を中心に、7月~3月にかけて当事者24名に新たにインタビューを実施した。また、1年目で得たインタビューデータをもとに、第63回関東社会学会大会自由報告部会において「日本社会における人種編成-「ハーフ」「ミックス」の経験を事例として-」という題目で報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目で得られたインタビューデータの分析結果をもとに関東社会学会で報告を行い、会場から本研究を進める上で重要な示唆・指摘を受けることができた。さらに、インタビューデータの実数を増やしてこれらの分析をより深化させるために、当事者団体への参与観察や縁故によるスノーボール方式によって候補者を選定し、これまでの2倍以上のインタビューデータを集めることができた(計41名)。新たなインタビューデータによって、これまでの生活史調査における分析が拡充されるとともに、新たなテーマの語り(在日コミュニティにおける「ハーフ」としての経験、「ハーフ」と女性性に関する語り(「ハーフ」の子どもを「産みたい」という語り、職場におけるレイシャル・セクシュアルハラスメント、「ハーフ」と女性性に関連する美意識・体型・メイクなどの語り)、レイシャル・プロファイリングにおける「ハーフ」と男性性との関連性など)も聞くことができた。また、外務省資料館などで得られた史資料をまとめ、戦後日本社会における「混血」「ハーフ」言説の変遷過程とその背景である社会構造との関連性を分析し、それらの成果を執筆したものを日本社会学会「社会学評論」へと投稿することができた(現在、査読中)。さらにフィールド調査として、かつて英連邦軍が駐屯していた呉市では、呉市教育委員会などの資料から豪州軍における民間人との交友関係を規定した政策(フラタニゼーション政策)などが明らかとなった。これまで先行研究では大半がアメリカ軍人との間の子どもであったため、上記のような豪州との混血児に関する資料や対策を分析することで、混血児問題対策の地域差(呉市と他基地地域)や国家間との差異(米国と日本、豪州と日本)などの特色を明らかにすることができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた史資料とインタビューデータの分析結果を論文として執筆し、各学会誌へと投稿する。これらの論文を取りまとめることで、平成28年度中の学位論文の執筆・完成を目指す。 具体的には、公文書館や外務省などで得られたデータをもとに政府・施設・社会運動団体・当事者団体などのアクターが「混血児問題」をめぐってどのように対策を講じたのか、アメリカ政府との間でどのような交渉が生じたのか(養子縁組や移民法をめぐって)、これらのアクターの動きとメディアの言説編成がどのように相互連関していたのかについて明らかにし、論文へとまとめる。また、インタビューデータについては特に、分析結果として「家庭」「職場」「学校」「街頭」という社会的場面でより多くの人種的な規制作用にさらされている実態が明らかとなってきたため、これらの各場面の構造的作用を当事者の語りから明らかにし、これらを論文へとまとめる。さらにライフストーリーの中で特に深刻な人種差別を経験していたストーリーとして、「街頭」という社会的場面におけるレイシャル・プロファイリングの問題が語られていた。これは特に男性の「ハーフ」に多い経験であるため、プロファイリングの背景にある人種・ジェンダーにまつわる犯罪イメージについて分析し、執筆・投稿を目指す。 投稿と学位論文作成の上で、必要とされる補足データについて追加調査を実施する。史資料は引き続き公文書館、政府機関資料館、図書館のアーカイブスなどので収集し、基地周辺地域への追加資料収集も実施する。また、「アメリカ系うちなーんちゅの会」や「ハーフコミュニティ交流会」などの当事者団体にも引き続き参与観察を実施し、データを拡充するために20名の追加インタビューを実施する。
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