研究課題/領域番号 |
14J06623
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
荒牧 慎二 九州工業大学, 大学院情報工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | アクチンフィラメント / ファシン / フィロポディア / モータータンパク質 / 電子顕微鏡 / 構造生物学 / 生物物理学 |
研究実績の概要 |
本研究では,神経細胞(NG108-15)をモデル細胞として取り扱い,その細胞の,糸状仮足(フィロポディア)構造に注目している.その中でも,細胞骨格タンパク質であるアクチンフィラメントとその結合タンパク質にフォーカスしている.研究手法としては,クライオ電子線トモグラフィ法を用い,構造生物学的アプローチにて研究を行っている. 平成26年度においては,クライオ電子顕微鏡法で取得した傾斜シリーズを,コンピュータを用いて画像処理を行い,一枚一枚のデータ品質を高めた.その後,高速演算装置を用いることで,二次元のデータから三次元へと再構成した.これにより,得られた三次元データを,コンピュータを用いて解析することにより,糸状仮足中の詳細構造を解明することができた. 糸状仮足中では,アクチンフィラメントは整然と配置されていることがわかり,その間隔は10 nm程度であると推定された.この結果は,すでに報告されているin vitroの結果に一致していた.また,このアクチンフィラメントを束ねているタンパク質は,ファシンであり,このファシンは,アクチンフィラメントを六方格子状に束ね,3方向中の2方向からのみ結合しており,これらファシンはそれぞれ36 nmの周期で結合していた.また,アクチンフィラメント同士の関係性を調べたところ,それぞれのアクチンフィラメントは同じ位相を持っているということがわかった.これは,アクチンフィラメントの束化が格子状になる原因と関連しているのではないかと推定できる. これらの,糸状仮足中の詳細構造は新たな知見であり,糸状仮足形成メカニズムを解明する上で,重要な情報である.さらに,本研究は,in vitroではなく,in vivoの構造解析手法を用いており,生体環境下でこれら,詳細の構造が得られたことは,大きな成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,クライオ電子線トモグラフィ法と,画像処理技術を用いて,糸状仮足内のアクチンフィラメント束化構造を詳細に構造決定に成功した.これにより,細胞内の実際に働くタンパク質の構造を明らかに出来た.また,再構成を行った三次元像より,ミオシン分子と思われる電子密度を観察している.さらに,現段階までに観察したアクチンフィラメント束化タンパク質である,「ファシン」は本研究において最終ターゲットである,ミオシンの重鎖よりも分子量が小さい.そのため,ミオシン分子を糸状仮足中において,クライオ電子線トモグラフィ法を用いて捉えることは十分可能であると示唆される.また,ファシンの三次元構造を詳細に観察するために用いた,「三次元平均化技術」を応用することで,同様に生体環境下において働く,ミオシン分子の高分解能構造を取得できると期待される. そのため,今ある技術を元に,最終目的である,細胞内ミオシン分子の姿を明らかにする事ができると考える.以上の理由より,本研究は「概ね順調に進展している」といえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,最終目的である「糸状仮足中で働くミオシン分子」の構造解析にフォーカスする.現在,フィロポディア中でのタンパク質構造を明らかにする技術を確立しており,フィロポディア中でアクチンフィラメントを束化するファシン分子の構造を明らかにした.これまでに確立した技術に加え,「遺伝的電子顕微鏡用ラベル」,「最新型クライオ電子顕微鏡」,「直接検出型カメラ(DDD; Direct Detector Device)」,「走査透過型電子顕微鏡(STEM; Scanning Transmission Electron Microscope)」など新たな技術を導入することで,ミオシン分子の運動メカニズム解明に迫ろうとする. 細胞内タンパク質構造解析において,「ファシン」と「モータータンパク質」の違いは,ファシンは周期的に配されているため,タンパク質の同定が容易であることである.一方,「ミオシン」分子は,ランダムに存在するため,同定することが困難である.また,電子顕微鏡による撮影において,撮像したデータには細胞質に含まれるすべてのタンパク質の情報が反映されている.そのため,さらに同定を困難にする.この問題を解決するために,アクチンフィラメント周囲の構造に注視し,ミオシンの同定を行い,さらに「メタロチオネイン」と呼ばれる電子顕微鏡用のラベルなどを用いることで,細胞中でのタンパク質同定を可能とする. また,新たなハードウェアとしても,新たな機器を導入する.長時間安定的観察することができる,最新型クライオ電子顕微鏡や,近年急速に発達している,超高感度カメラ技術とブレ補正技術,より厚い試料の観察可能で,試料傾斜によりデフォーカスの影響を受けない走査透過型電子顕微鏡技術などを導入することで,クライオ電子線トモグラフィ法を用いた新たな細胞内タンパク質構造解析手法を発展させ,細胞内で運動するミオシン分子の可視化ができると確信している.
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