研究実績の概要 |
今年度は、当該研究課題から得られた成果の集大成として、長期記憶を誘導するドーパミン報酬がハエの記憶中枢であるキノコ体からのフィードバック制御を受けるという重要な発見を筆頭著者として発表した(Ichinose et al., eLife, 2015)。これまでの研究(Yamagata, Ichinose et al., PNAS, 2015)により、特定のドーパミン作動性細胞からのドーパミン入力が長期記憶の形成に重要であることがわかっていたが、その形成メカニズムの詳細は明らかでなかった。本研究はこれをさらに深め、フィードバック回路を介した「報酬の増幅機構」が特定のドーパミン神経に働き、このフィードバック回路が学習後もしばらく活動していることが記憶の長期化に重要であることを発見した。この長期化された記憶は短期記憶に比べて記憶の特異性が下がることも明らかになり、記憶の特異性と安定性の間のトレードオフを示唆する結果となった。 ヒトの場合でもドーパミン神経系が脳の報酬情報に深く関連し、記憶中枢との相互作用が示唆されている。長期記憶の形成を誘導するフィードバック回路とその動作原理を一細胞レベルで明らかにした本研究の成果は、記憶障害メカニズムの効果的なモデルを提供したという点で特筆に価する。
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