研究課題
骨組織がその健常性を維持するためには、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収がバランスをとることが重要であるが、関節リウマチや歯周病などの炎症性骨疾患においては、破骨細胞の活性化による骨吸収が過剰となり異常な骨破壊が生じることが知られている。本研究では、炎症性骨破壊疾患において、破骨細胞がいかにビスフォスフォネート系薬剤に対して治療抵抗性を示すのかそのメカニズムを解明することを主な目的とする。まずNF-κBに着目して研究を進めた。NF-κBは活性化刺激の種類、刺激時間、刺激を受ける細胞ごとに活性化している2量体の構成因子が異なる。そこで、1年目の研究では破骨細胞分化因子RANKLが誘導するNF-κB活性化の時間変化を詳細に解析することで、古典経路や非古典経路と呼ばれるNF-κB活性化経路の関与が破骨細胞分化過程のどのタイミングで起こっているかを明らかにすることを調べた。破骨細胞前駆細胞をRANKLで刺激した際のNF-κB活性化の検出には、核タンパク質と RI または蛍光標識したNF-κB 結合配列オリゴの混合サンプルをポリアクリルアミドゲルで電気泳動した際に、NF-κB/オリゴ複合体が形成されれば移動度が小さくなる性質を利用して NF-κB の活性化を検出する手法(EMSA)を用いる。その結果、RANKL刺激の時間経過とともに活性化するNF-κB構成因子が変化していることがわかった。また、通常の破骨細胞と炎症性骨破壊を行う炎症環境下で分化した破骨細胞を区別するための細胞表面マーカーを同定すべく、通常の破骨細胞と比較して炎症環境下で分化した破骨細胞に高発現する因子を探索したところ、炎症環境下のみにおいて高発現する細胞表面マーカーを同定することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
まず、修士課程から継続している研究である、アレルギーや自己免疫疾患等に重要なマスト細胞において、NF-κB活性化によりMMP-2発現が誘導され、マスト細胞の浸潤に重要であることを証明した研究について、Int Arch Allergy Immunol誌にアクセプトされた。また、関節リウマチ等の炎症性骨疾患の関節破壊と機能的に直接連関して、関節炎の発症、増悪に関与している可能性のあるタンパク質を見出すことに成功しており、この因子の関節リウマチ病態との関わりをさらに深く調べていくことにより今後のさらなる研究の発展が期待できると考えている。本研究1年目において、学術誌に掲載されるなどの研究成果を上げることができ、現在進行中の研究では炎症性骨疾患の治療ターゲットとなりうる因子の同定に成功したため、研究は順調に進んでいると考えている。
RANKL刺激の時間経過とともに活性化するNF-κB構成因子が変化していることがわかったため、今後は炎症性サイトカイン刺激によって誘導されるNF-κB活性化動態と比較することを予定している。さらに炎症環境下で分化した破骨細胞において活性化しているNF-κBの下流遺伝子を網羅的に調べることで、ビスフォスフォネート製剤による細胞死耐性獲得に関与している新たな標的タンパク質の同定を目指す。また、通常の破骨細胞と比較して炎症環境下で分化した破骨細胞に高発現する因子を探索し、炎症環境下のみにおいて高発現する細胞表面マーカーを同定している。さらに興味深いことに、そのマーカーのリガンドを添加することで破骨細胞分化がさらに促進されるという結果が得られており、炎症環境下で分化した破骨細胞の細胞表面マーカーであるだけでなく、関節リウマチ等の炎症性骨疾患の治療ターゲットとなりうる可能性もある。今後さらにこの因子についてヒトRA患者由来滑膜組織や炎症性骨疾患モデルマウスでの発現解析を行うことにより、炎症性骨疾患との関わりを詳細に調べる。抗TNF 製剤は、関節リウマチ治療薬のゴールドスタンダードとしての地位を確立したが、抗TNF 製剤無効の症例も多く、これにどう創薬的対処を行うかは大きな課題である。今後、炎症性骨疾患の治療ターゲットとなる分子添加によるの破骨細胞分化促進効果の詳細なメカニズムを解析することで、炎症性骨疾患の病態促進に深く関わると想定する破骨細胞の性質変化についても、創薬を考える上で重要な情報が得られることが期待できる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件)
Int Arch Allergy Immunol
巻: 166 ページ: 84-90
10.1159/000371419
FEBS Open Bio
巻: 4 ページ: 777-787
10.1016/j.fob.2014.08.007