研究課題
ILCのための高強度陽電子源の開発においては,逆コンプトン散乱により生成されるガンマ線の輝度を2桁以上向上する必要がある.そのため光共振器に蓄積するレーザー光の強度を向上することが最優先の課題となっている.本年度は増大率1万倍以上の蓄積増大率を達成する光共振器の開発のために,共鳴維持制御システムの設計と,蓄積強度の増強のための高反射率鏡の評価,および自発共鳴型共振器の開発に取り組んだ.まず共鳴維持制御システムを設計するために,鏡の位置制御に用いるアクチュエータの機械モード特性を,レーザー光を探索針に用いた光学測定系を構築して評価した.その結果,利用可能な制御帯域が数kHz程度に制限されていることが判明し,共振器筐体やアクチュエータを改善して帯域を向上する必要があることが判った.制御システムの開発においては,デジタル信号処理装置を用いて既存のアナログ装置に代わるサーボ制御回路の開発を行った.高反射率鏡の評価においては,汚染に非常に敏感な鏡表面の特性を評価するために,国立天文台の協力のもと散乱損失値の測定を行った.また同時に,鏡の反射率を維持するための取り扱い技術を習得した.その後,研究室にFabry-Perot型の試験共振器を構築して,フィネス28万を達成した.この値は使用した鏡の平均の反射率が99.9988 % 以上であることを示す.一連の高反射率鏡の評価により,増大率1万倍以上の共振器を設計する具体的な指針を得ることができた.年度の後半からは,原理的に外部システムによる共鳴維持を必要としない新しいアイデアによる共振器「自発共鳴型光共振器」の開発に着手した.低フィネス共振器による原理検証を終えた後,現在既にフィネス28万の共振器を組み込んだ状態でCW動作のレーザー発振に成功している.ガンマ線生成実験に実用的な共振器を開発するために来年度も開発を継続する予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画とは異なるレーザー蓄積システム「自発共鳴型光共振器」を用いて研究課題の解決に挑んでいる,という点で,(1)ではなく(2)とした.研究自体はとても順調に進んでいる.ガンマ線生成実験に利用可能な実用的な自発共鳴型光共振器の開発に成功すれば,従来の共鳴維持制御に関わる困難は解決され,蓄積増大率の飛躍的な向上が見込まれる.現在,その評価が可能な開発段階まで研究を進めており,今後の進展に期待できる.また今年度は,高反射率鏡の取り扱いや評価方法を習得し,増大率が1万倍を超えるような光共振器の設計に関して,具体的な設計の指針を得ることができた.またFabry-Perot型の試験共振器を構築して,28万というこれまでにない高いフィネスの共振器を構築することができた.このフィネスの値は増大率にして10万倍程度になる.以上のように,本年度の研究によって,蓄積増大率を1桁以上向上するために必要な二つの要素,共振器開発と共鳴維持制御に関して,目標値を達成可能な具体的な指針を得た.研究は順調に進展しているといえる.
研究に取り掛かった当初は,安定したレーザー発振器の発振波長に対して光共振器の共振器長を共鳴条件を満たすように制御を行う,従来型のレーザー光蓄積システムを想定しており,そのなかで申請者は特に共鳴維持制御システムの開発を行っていた.しかし開発の途中で,現状の共振器筐体およびアクチュエータでは,蓄積増大率を1万倍程度まで上げると共鳴を維持できない恐れがあることが判った.そこで現在は主に,共鳴維持の技術的な困難を回避するために,システム自身が自発的に共鳴の維持を達成する新しいレーザー蓄積システム「自発共鳴型光共振器」の開発に取り組んでいる.今後の研究においても,この新しいレーザー蓄積システムの実現を目指す.開発においてはまず,増大率が1万倍以上の共振器を用いてレーザー光の蓄積が行えるかどうか把握するために,システムの動特性や安定性について定量的に評価する必要がある.申請者はこの新しい共振器の基礎特性を解析して,レーザー光蓄積共振器としての実現可能性の評価を行う.これはパルス作動のレーザー発振およびその蓄積を行うためにも,重要な研究課題である.その後,CW動作で100 kW程度の蓄積強度を目指してデモンストレーションのための試験共振器システムを構築する予定である.また,原理的には外部制御を必要としないアイデアではあるが,発振の安定性向上のため,パルス化のため,また加速器電子ビームバンチとの時間同期のために,外部制御系の構築は必須であり,デジタル制御系の開発は継続して行ってゆく.また従来のレーザー蓄積システムにおけるフィードバック制御系の開発も,継続的に実現可能性を探求してゆく予定である.
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REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS
巻: 86 ページ: 043303
10.1063/1.4918653