研究実績の概要 |
我々の社会では古くから、多くの意思決定場面において「集団」を一つの道具として利用してきた。これは、単独の個人よりも様々な認知資源を持った個人たちで構成された集団として意思決定を下す方が優れた結果をもたらすと人々のあいだで考えられてきたためである。しかし、従来の社会科学の諸研究では、集団意思決定のネガティブな側面や手続き的公正さに焦点を当ててきたため(Condorcet, 1785/1994)、集団意思決定の生産性や適応的機能に関わる発想を欠いていたといえよう(c.f. 亀田, 1997)。集団意思決定の適応的機能についての関心は、近年、生物学においても急速に拡まっており、そうした研究は、“集合知”という言葉で論じられている(Seeley, 2010)。集合知とは「2人以上の意見を集約すると、単独の個人よりも優れた判断が導き出されること(Galton, 1907)」と定義される。集合知の成立には、個人の判断におけるエラーの分布が鍵を握ることが分かる。各人が互いに独立に判断を行うかぎり、集約によりエラーが相殺され、結果的に集団平均は正解に近くなる。つまり、判断の独立性は集合知の必要条件である。だが、日常的に各個人が相互に影響を与え合っている現実の社会においては、各個人が判断の独立性を保つのは難しい(Lorenz et al., 2011)。 従って、現実の集団場面で集合知が成立するためには、「互いの判断を参考にしながら、個々人は他者の判断と独立した意見を形成することが必要となる」という“独立性と協調のパラドクス”が解決されなければならない。本研究では、人々はどのような条件の下で集合知を生み出すことができるのかという問いを行動実験によって検討し、集団意思決定場面における人々の振る舞いを社会的学習戦略の違いという観点からモデル化することで、集団意思決定のメカニズムを解明することを目指している。
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