研究課題/領域番号 |
14J06840
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
豊田 新悟 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 磁気光学 / マルチフェロイクス / 光物性 |
研究実績の概要 |
空間反転対称性と時間反転対称性が同時に破れたマルチフェロイック物質においては、光の進行方向の反転によって光学定数の大きさが変化することがある。光の進行方向の反転によって光吸収および屈折率が異なる現象のことを、それぞれ方向二色性と方向複屈折と呼ぶ。方向複屈折により物質中のトロイダルモーメントがあたかもベクトルポテンシャルのように働き、光路が光の進行方向の反転によって変化する現象(光のローレンツ力)が予想されている。本研究では、この光のローレンツ力を実験的に観測することを目的とした。 対象物質CuB2O4は、21K以下の低温で傾角反強磁性的な磁気秩序を示す。CuB2O4はこの傾角反強磁性相において、888 nmの近赤外光に対して、吸収係数の比κ+/κ- が300%に及ぶ巨大な方向二色性を示すことが報告されている。今年度の研究では、c面が広い試料を用いて、Voigt配置で光のローレンツ力の検出を試みた。光源には888 nmのレーザーダイオードを選んだ。レーザーからの光を試料に入射し、その透過光をビームプロファイラによって検出することで、磁場反転による光軸の変位を測定した。本研究では、交流の外部磁場を印加し、光強度の重心位置の時間変化を逆フーリエ変換することで、磁場と同期した光軸の変位を検出した。 実験の結果、外部磁場を[110]軸方向に印加したとき、光軸の重心位置が変位することを確認した。さらに、温度依存性を調べたところ、傾角反強磁性相でのみ、光軸の変位が観測されることがわかった。この結果は、観測された光軸の変位が、確かに方向複屈折に起因したものであることを示唆している。しかし、光軸の変位方向が、理論から予想される方向だけではなく、[110]軸方向にも変位していた。そのため、観測された変位が光のローレンツ力によるものかどうかを、現在検証している段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度は、マルチフェロイック物質CuB2O4における光のローレンツ力の検証を行った。具体的には、この効果を検出するための光学系を立ち上げ、光のローレンツ力に起因したものと考えられる光の微小変位を検出した。現在この実験結果を解析している。また、同じくCuB2O4において、発光過程における方向二色性を観測することに成功した。観測された発光の方向二色性は、これまでに報告されていた値よりも100倍以上大きなものであり、応用への展開の可能性を拓くことができたと考えている。本結果は日本物理学会第71回年次大会において発表した。さらに、平成26年度に行った研究「CuB2O4における光の一方向透明現象」の成果を、Physical Review Lettersに論文として発表した。本研究結果は朝日新聞等の各種新聞紙に掲載され、一般からの注目も集めている。以上のことから当初の計画以上に進展
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今後の研究の推進方策 |
今後は、観測された光軸の変位が光のローレンツ力によるものであることを裏付けるため、[110]軸だけではなく、[100]軸に磁場を印加した配置でも同様の測定を行う。[110]軸に磁場を印加した場合には磁場に垂直な方向に光軸が変位することが予想されるが、[100]軸に磁場を印加した時には磁場と平行な方向に光軸が変位することが想定される。これを実験的に確かめる。さらに光軸の変位量は試料の厚さに比例することが予想される。さまざまな厚さの試料で実験を行うことにより、これを確認する。さらに光源の波長を変化させて測定することで、光のローレンツ力の波長依存性を定量的に評価する。
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