本研究の目的は、ナノセルロース系材料の課題とされる耐水性や脆性という特性を改善することである。そのため、ナノセルロース材料の中でもTEMPO酸化セルロースナノフィブリル(TOCN)を用いて、TOCN表面に存在するカルボキシル基の対イオンを様々なイオンに交換した。本年度は4級アンモニウムイオンへと対イオンを交換したTOCNの有機溶媒中への分散性と、フィルムの光学・力学特性について検討を行った。 プロトン型カルボキシル基を有するTEMPO酸化セルロースパルプに、水酸化4級アンモニウム水溶液を加えることで、全ての対イオンを4級アンモニウムイオンへと交換した。本研究で検討した4級アンモニウム型TOCNは、水だけでなくDMFやメタノールなどにも分散し、最もアルキル鎖の長いテトラブチルアンモニウムを用いることで、低比誘電率を有するアセトンやイソプロピルアルコールにもTOCNを分散させることが可能となった。この結果は、現在ナノセルロースの応用展開先として有望視されている、疎水性ポリマーとの複合材料にTOCNが利用できる可能性を示したといえる。次に、4級アンモニウム型TOCN水分散液から、キャスト乾燥法により透明な自立フィルムを作製した。導入した4級アンモニウムイオンの炭素数により、フィルムの構造を制御できることが明らかとなった。テトラメチルアンモニウム型、テトラエチルアンモニウム型フィルムは高破断歪みと高破壊仕事を示した。フィルムの水滴接触角を測定したところ、テトラブチルアンモニウム型フィルムは100度という疎水性といえる値を示した。従って本研究で作製したTOCNフィルムは、表面疎水性かつ延性を有することが明らかとなった。つまり、ナノセルロース系材料の課題を克服したTOCNの調製に成功したといえる。
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