研究課題/領域番号 |
14J06881
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
日比 裕理 東京工業大学, 資源化学研究所, 特別研究員(SPD)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | 液晶 / 相分離 / 異方的相溶性 / roll-to-roll塗工 / ブロック共重合体 / ミクロ相分離 |
研究実績の概要 |
ポリエチレンオキサイド(PEO)と液晶(LC)性メタクリレートが形成するブロック共重合体(LCBCs)の形成するミクロ相分離シリンダーアレイ構造を利用し、多様な機能を発現しうる透過性「スマートメンブレン」の開発を進め、本年度は以下三点の基盤技術を確立した。 ①多孔質基板へのLCBC相分離膜直接塗工 市販のマクロ多孔膜上に保護水溶性高分子層を予め塗布することで、LCBC薄膜の連続Roll to Roll塗工プロセスを確立した。加圧透水により保護層は除去可能で、また透水流束は0.5L/m2/h/bar(実用RO膜と同程度)であった。ガス透過では、水素選択性が見られた。②異種LCBCsブレンド膜における組成分布制御 等方転移温度が互いに異なる異種LCBCブレンド薄膜においては、等方転移の高い順に空気界面側から基板に向けて自発的に積層し、組成分布が制御されることを見出した。これは、液晶の空気界面アンカリング効果と、ホメオトロピック配向性、異種へテロ液晶間の非相溶性を利用したもので、高分子液晶の本質をついた新規相分離形態である。③相分離界面に組み込まれた活性エステルのアミノリシスによる界面修飾法 前年度より、シリンダー相分離界面の壁面に偏析させた活性エステルを水溶液中でアミノリシスすることで、任意官能基による壁面修飾を可能とする手法を検討している。本年度は、高分子側鎖に加え、高分子主鎖に活性エステルを組み込むことで、シリンダー界面の機能化と同時に、空孔化を可能とした。 上記の各基盤技術を融合することで、壁面が高度に機能化された透過性のナノチャネルを有する「スマートメンブレン」の創出が期待でき、高分子の高次構造制御によるナノ反応場としての応用検討が可能となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は当初、ポリエチレンオキサイド(PEO)と液晶(LC)性メタクリレートが形成するブロック共重合体(LCBCs)の形成するミクロ相分離シリンダーアレイ構造を利用し、その界面を官能基修飾することで、ナノシリンダーをフロー系のナノリアクター化することを提案し、採択された。その研究自体は順調に進行し、界面の任意機能化や、多孔質基板への直接連続塗工、更には透水実験などによりナノシリンダーの基本物性・性能を確認するところまで進展している。一方、課題遂行中に着想を得た、等方転移温度が異なる異種LCBCsブレンド薄膜における組成分布制御法は、課題提案時には予定していなかった現象だが、高分子液晶の本質に迫る興味深い挙動を示すことを見出した。この現象は、液晶の空気界面アンカリング効果と、ホメオトロピック配向性、異種へテロ液晶間の非相溶性を利用したものである。すなわち、薄膜熱処理後の冷却過程において、ブレンド薄膜構成LCBCs中、最も等方転移温度の高いLCBCsの液晶相が空気界面に析出し、等方転移の低いLCBCsはこのとき融解状態を保っている。更に温度を下げていくことで、等方転移温度の高い順に、逐次析出することで、組成分布を膜厚方向に沿って制御可能となる。特筆すべきは、このヘテロ液晶間のマクロ相分離が、面内の液晶ドメイン-PEOドメイン間ミクロ相分離を維持したまま起こる点である。したがって、マクロ相分離したヘテロ液晶間をPEOシリンダーは垂直貫通するため、界面官能基修飾法と組み合わせると、シリンダーに沿って官能基の配列を制御することができる。このように、当初計画していなかった新現象により、更なるPEOシリンダー・ナノチャネルの高度機能化が可能となるため、計画以上の進展といえる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、二年間で積み上げた要素技術①多孔質基板へのLCBC相分離膜直接塗工、②異種LCBCsブレンド膜における組成分布制御、③相分離界面に組み込まれた活性エステルのアミノリシスによる界面修飾法、を組み合わせ、触媒活性基などがシリンダー界面に、特定配列で組みこまれた透水性のナノチャネルを合成し、実際にその触媒活性を評価する。特に、制御された官能基配列を生かし、連続反応(ドミノ反応)をターゲットとする。具体的にはグルコースとフルクトースの異性化反応と、フルクトースからのみ起こる脱水反応を組み合わせ、混合糖からのヒドロキシメチルフルフラール(HMF)合成を検討する。HMFはバイオマスとして注目されており、その利用価値は高い。また、反応変換以外の機能も検討する。特に、Liイオンを選択的に透過し、マンガンなどの遷移金属イオンを透過しない隔膜は、Li電池分野での要請が極めて大きい。PEOとLiの選択性や、壁面に組み込まれたホスフィンの遷移金属への配位能力などを組み合わせることで、そのような選択透過膜が可能かを検討する予定である。
|